山本隆三の快刀乱麻

「脱成長論」は途上国にしわ寄せ、脱炭素と経済成長は両立できる (1/2ページ)

 2019年末の欧州連合(EU)に続き、菅義偉首相も昨年10月、50年温室効果ガス実質排出量ゼロ(ネットゼロ)を宣言したが、その2日後には韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領も宣言した。

 欧日韓に加え米バイデン政権も、ネットゼロ達成の道筋として産業振興と雇用増に寄与するグリーンニューディールをうたっている。バイデン大統領は5月28日に発表した22会計年度(21年10月~22年9月)の予算教書で大統領選挙中の公約50年ネットゼロ、35年電源の非炭素化を実現するため再エネ設備導入、新型原子炉、水素関連技術、電気自動車(EV)分野などを挙げ、さらに送電網などのインフラ整備を通し雇用を創出するとしている。大統領の要望通りの予算案が議会から出てくるかは不透明だが、政権の意図が温暖化対策を通した経済成長と雇用創出にあることは明らかだ。

 韓国の1次エネルギー自給率は日本よりも少し高いが、1人当たりのエネルギー消費量、二酸化炭素(CO2)排出量は、気候のためか、日本よりも大きい。そんな状況でも、文大統領は50年ネットゼロを昨年10月宣言し、7月に発表していた370億ドル(約4兆489億円)のEV、燃料電池車(FCV)支援などのグリーンニューディールに加え、さらに70億ドルを住宅部門などに追加で支出すると発表した。

 EUも水素、電池などにエアバス方式で取り組み成果を上げることを狙っており、コロナ禍からの復興予算の37%、30兆円以上をグリーン成長分野に投入するとしている。EUの中ではスペインが復興予算を利用し、EV用電池製造を行う予定と発表しているが、さらに、予算のうち15億ユーロ(約1999億3500万円)を、米国とスペイン企業が事業化を予定している再エネ電源を利用する水素製造事業に支出すると表明している。

 主要国が環境と経済の好循環を狙う中で、経済成長を通した温暖化対策を否定し、「温暖化対策のためには脱成長しかない」との主張が、十数年前から欧州で出始めた。スウェーデンで温暖化防止のため学校ストライキを始めた環境活動家グレタ・トゥーンベリさんも、国際会議の場で企業人を前に「地球は絶滅の危機にあるのに、お金の話ばかりしている」と批判している。企業活動による温暖化対策に否定的なようだ。日本でも最近、温暖化対策は脱成長によるしかないと主張する書物が新書大賞を受賞したりしている。温暖化対策は、経済活動を通して行えないのだろうか。

 環境問題と資源の制約で地球はやがて行き詰まるとの主張を最初に大きく取り上げたのは、1972年に出版されたローマクラブの「成長の限界」だった。化石燃料はやがて尽き、地球が受け入れられる環境の限度を超えるとの内容だったが、同じような議論は、18世紀末に初版が出版されたトマス・マルサスの「人口論」でも行われた。人口増加のスピードに食料生産は追い付かず、やがて貧困に直面すると予想した。エネルギー資源に関する同様の予測もあった。ウィリアム・ジェヴォンズは、19世紀半ば「石炭問題」を著し、エネルギー効率改善が石炭消費量を増加させる「ジェヴォンズのパラドックス」を指摘したが、同時に石炭資源の枯渇により経済発展も阻害されるとした。

 マルサスもジェヴォンズも偉大な経済学者だったが、予測された貧困もエネルギー不足による経済の停滞も生じなかった。その理由は、肥料の発明と代替エネルギーの発見。要は科学技術の進歩により、問題が克服されたからだった。

 地球温暖化に関することも予測するのは難しい。実験室では確認できる事象も地球規模となると確認できないからだ。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、21世紀末に気温が5度上昇すると述べているとテレビ番組などでは引き合いに出されるが、IPCCのリポートではシナリオに基づきさまざまな温度上昇の予測を行っており、その中で最も温度上昇が高い予想が4.8度上昇というに過ぎず、断定はない。IPCCは温暖化に伴うリスクも挙げているが、具体的な被害額を示してはいない。

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