山本隆三の快刀乱麻

「脱成長論」は途上国にしわ寄せ、脱炭素と経済成長は両立できる (2/2ページ)

 「温暖化」の不確実性

 温室効果ガスの濃度上昇と気温との関係、気温上昇と経済活動への影響、どちらも不確実性が高く断定はできない。不確実性があるのであれば、温暖化防止のため脱成長により生活レベルを下げるよりも、経済効果をもたらし、かつ温暖化対策にも寄与する投資を行う方が良い。脱成長論の主張の前提は、温暖化により大きな被害が発生することが前提になっているが、科学的な態度とはいえない。

 もう一つ大きな問題がある。地球の多くの人たちは経済成長を必要としている事実だ。

 2015年パリ協定が合意される数年前の気候変動枠組み条約の会合(COP)の場で、先進国の代表から、「途上国も排出抑制に責任を持つべきだ」との主張が行われた直後、会場の途上国代表の一人から「あなたたちは、私たちに貧乏のままいろと言っているのだ。そんなことを言う権利があるのか」と大声でヤジが飛んだ。途上国は経済発展にエネルギーを必要とし、温室効果ガスは増えざるを得ないとの主張だ。

 先進国は、温暖化対策を通し途上国を支援する必要がある。だが、実際には難しい問題に直面することもある。欧州委員会、議会は、途上国でパーム油生産により森林破壊が引き起こされているとして、パーム油輸入を禁止する方針だが、途上国経済には大きな影響を与える。関連雇用1850万人、生産農家460万人を抱えるインドネシアは世界貿易機関(WTO)に訴えた。ナイジェリアなどアフリカの生産国でも、欧州からの投資がなくなり雇用が失われると悲鳴が上がっている。脱成長論では、先進国は途上国を利用していると批判されるが、ここでは先進国の温暖化対策が途上国を苦しめる結果になっている。

 貢献は企業の役割

 私は大学教員になる前、企業に勤務していた。海外資源開発事業の後、海外での温室効果ガス削減事業に従事していた。当時は京都議定書の下、削減した温室効果ガスを排出権として自国の目標達成に利用することが、国連の承認を条件に認められていた。手掛けたインドの事業が日本の第1号案件として承認された直後、社長に呼ばれた。

 社長からの話は「海外で排出権を獲得する事業を自社で行い必要とする企業、国に売却することは途上国支援にもなり意義のある仕事だ。ただ、他社が獲得した排出権を右から左に売ってもうけるようなことは謹んでほしい。企業の目的は事業を通し社会に貢献することだが、単に右から左にというのは少し違うような気がする」というものだった。この経営者の考え方には賛否があるかもしれないが、「事業を通し社会に貢献する」との考え方には、多くの方は賛同されるのではないだろうか。

 それぞれの企業には役割があり社会の役に立っている。私たちが学校で学ぶのは、学んだことを働く場を通し社会に還元するためだ。社会にとり不要な仕事はない。不確実性が高い温暖化対策に取り組むのは、事業を通し社会に貢献する企業の役割だ。脱成長論は企業性悪性に立ち、企業を誤解している。企業は、エネルギー消費を削減しながら成長を実現し社会を豊かにすることができる。

【プロフィル】山本隆三 やまもと・りゅうぞう 常葉大学経営学部教授。京大卒業後、住友商事に入社。地球環境部長などを経て、2008年プール学院大学国際文化学部教授、10年から現職。財務省財務総合政策研究所「環境問題と経済・財政の対応に関する研究会」、経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。現在、国際環境経済研究所所長、NEDO技術委員などを務める。著書に『経済学は温暖化を解決できるか』(平凡社)、『夢で語るな日本のエネルギー』(マネジメント社)など。

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