高論卓説

中国ECの巨大商戦、新局面へ TikTok中国国内版による正式参入で変化

 「抖音」の「618」参入で変わる勢力図

 中国における2大EC(電子商取引)商戦の一つ、「618」が現在進行中である。年間最大のEC商戦の11月11日「ダブルイレブン(独身の日、双十一)」へも大きな影響を及ぼす重要イベントとして、数多くのブランドが注力している。(森下智史)

 毎年行われる618だが、今年は若干様相が異なる。最も大きな変化は「抖音(Douyin、ドウイン)」、すなわちTikTok(ティックトック)中国国内版による商戦への正式参入である。

 抖音の1日当たりの利用者数は6億人を誇り、特にライブコマースでは大きな影響力を持つことから、これまで多くのECサイトが抖音からの膨大なトラフィックを自社サイトへ流入させて売り上げ拡大に活用していた。昨年の618でも同様の動きがみられた。ところが昨年の下半期に、抖音は抖音ライブコマースから外部ECサイトへの遷移を事実上シャットアウトした。理由は抖音小店という自社EC機能を強化したことにある。「ライブコマースを閲覧して購買するまでの一連の消費行動を、抖音アプリ内で完結させる」という仕組みを構築したためだ。

 これにより、外部ECサイトにとってトラフィックの供給元だった抖音が、競合サービスとして対峙する形となった。そして抖音小店が今年、正式に618商戦に参入してきたのである。さらに業界を沸かせたのが、中国EC2位の大手、JDドット・コム(京東)が、抖音小店へ出店したことだ。抖音ライブコマースから自社サイトへの流入が望めない以上、その中に飛び込み、抖音のトラフィックを売り上げにつなげようという試みだろう。

 それに対し、アリババ系列ECサイトはJDドット・コムとは異なる対応を行った。618は、今年も従来通りであれば5月25日午前0時から予約販売が始まるはずであった。しかし、直前になってTmall(天猫)を含むアリババ系列では、商戦開始時刻を4時間早め24日午後8時から販売スタートとの発表がなされた。その理由として、「ライブコマースの効果をより高めるため」との発表があったが、これはまさに抖音対策の一環といえるだろう。

 午後8時台は、日本同様に中国でも「ゴールデンタイム」に位置付けられる。一日の仕事や学校を終え、夕食も終わりホッと一息つく時間で、かつてはテレビ視聴に当てられてきた時間だ。

 しかし今では、ショート動画視聴が主役となり、抖音と快手(クアイショウ)の2大ショート動画アプリの存在が大きい。特に抖音は、高い消費欲をもった「Z世代(1995~2009年に生まれた人)」がコアユーザーである。アリババ系列ECサイト陣営としては、この「抖音でくつろぐ時間帯」を618商戦に含めることで、傘下のタオバオライブ(淘宝直播)におけるカリスマKOL(キーオピニオンリーダー)の李佳●氏や薇★氏のライブコマースへ引き込みたいという意識が強かったのではないかと予測する。(●=王へんに奇、★=女へんに亜の旧字体)

 この施策の成否については、618のライブコマース動向を見守りたいところである。ちなみに、タオバオライブの商戦スタート時の状況を見ると、5月25日午前0時時点で、李佳●氏は自身のライブで849.86万件の商品、25.65億元を売り上げ、ライブ閲覧者は合計1.06億人。薇★氏も、617.42万件の商品、23.79億元を売り上げ、閲覧者数も1.04億人に達したと発表されており、出だしの好調さが伝わってきている。(●=王へんに奇、★=女へんに亜の旧字体)

 中国ECの勢力図が大きく変わる中、今後の合従連衡が帰趨(きすう)を分けることになる。観察者として注目していきたいところだ。

【プロフィル】森下智史(もりした・さとし)

 中国トレンドExpress編集長。2015年まで17年間、中国・上海に滞在。上海では在留邦人向けのフリーペーパーの編集・ライター、産業調査などに従事。帰国後の18年に日中間の越境EC支援会社トレンドExpressに入社し、現職。

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