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夢が追える場所へ 「銭湯にアート」で地域活性化、ある移住者の決断 (1/2ページ)

 絵画系クリエーターになった長男の作品が縁を取り持ち、奈良市から香川県多度津町に移住した日高明道(ともみち)さん(57)は、築約100年の廃業した銭湯を改修して「藝術喫茶清水温泉」を営んでいる。伝統的建造物でもある元銭湯は、アーティストたちの作品に彩られ、口コミやSNSで評判になった。「普通の田舎まちで、若者が住みたくなる地域づくりを成功させたい」と語る日高さんの選択を追った。

 作品が取り持った縁

 日高さんはもともと大阪生まれ。病院職員や友人とのアパレル事業などを経て、奈良市に移住。ならまちエリアの古民家でネコ関係のグッズやアートを扱うギャラリーを開いていた。

 長男のヒダカナオトさん(28)は平成23年、高校3年のときに「将来は絵描きになる」と一念発起。岡山県立大デザイン学部を卒業後、画家・イラストレーターになった。

 空想の生き物たちが植物に囲まれながらのんびりと暮らしている世界をテーマに創作するナオトさん。SNSで作品を発信し、個展や本のさし絵、カナダのバンドのアートワークなど、多方面で創作活動を続けている。

 ナオトさんの絵を購入し、ファンになった香川県多度津町の氏家(うじけ)しげみさんが今から8年前に、作者に連絡を取りたい、とつてをたどってメールを送り、感激した日高さん親子との交流が始まった。

 氏家さんに会いに訪れるうち、多度津町にも知り合いが増え、土地の魅力も知った日高さんは、「この地域の活性化のために動いてみたくなった」と移住を決断。廃業した銭湯の建物をつかって地域活性化の目玉をつくろうと思いたったという。

 建物を改修し、平成30年5月、藝術喫茶清水温泉を開業。銭湯の原形をなるべくとどめる形で補修し、アートとの融合を図る空間を作り上げた。

 レトロ感が漂う入り口、番台、木製の履物ロッカーなどはそのまま。勘違いして入浴目的の客が入ってくることも。湯船を利用した座席や店内のアートが話題となり、開業から3年で若者を中心に約3万人が来訪した。

 近代の建物を残したい

 多度津町は香川県中部にある人口約2万2千人の小さな港町。古くから海上・陸上交通の要衝として位置づけられていた。江戸時代には金毘羅参詣の上陸港、北海道や東北の産物を運ぶ「北前船」の寄港地としてにぎわっていた。

 第二次世界大戦で空襲の大きな被害に遭わなかったことで、古い建造物も現存。藝術喫茶清水温泉の建物もそのひとつだ。周辺にも歴史的な建物が残ることから、町は伝統的建造物群保存地区としての指定も視野に入れているという。

 藝術喫茶清水温泉は老朽化が激しく、長期的な活用には多額の費用も伴う。日高さんは「建築自体には特別な価値はないのかもしれないが、大正や昭和の生活の様子を今に伝える建物。地域として残すか否か議論してほしい」と話す。

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