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五輪閉幕、未来へ遺産 コロナ禍乗り越えた底力

 大輪の花のようにまぶしい笑顔があれば、悔しさにむせび泣く姿もあった。アスリートたちの感情の発露に接するたびに思った。この「舞台」を整えることができてよかったと。ほぼすべての競技会場が無観客となった東京五輪。それでも彼ら彼女らの熱量は伝わってきた。

 陸上女子1500メートルで8位入賞を果たした田中希実は「自分の中の常識も覆すことができた。本当に五輪という舞台が大きかったと思う」と快走の理由にふれ、柔道男子60キロ級決勝では試合後、高藤直寿と台湾の選手が手を取り合って互いの健闘をたたえ合う光景が何とも印象的だった。

 新型コロナウイルス禍によって史上初めて延期された五輪。体操男子2冠の橋本大輝は「1年前なら代表になれなかったかもしれない。この1年で金メダルを取るための練習ができた」と話し、バスケットボール女子の大崎佑圭さんは出産を経て「東京」を目指して現役復帰したが、延期で引退を決断した。自分の力ではどうすることもできない「壁」に翻弄された1年余り。それでも決断し、苦しみながらも前を向くことの大切さをアスリートたちの挑戦から感じた。「スポーツの力」なのだと思う。

 柔道のサギ・ムキ(イスラエル)とイラン出身のサイード・モラエイ(モンゴル)は敵対する祖国の関係を越えて選手村にある五輪のモニュメントを背景に笑顔で交流する写真をソーシャルメディアに掲載した。感染拡大の収束はいまだ見通せず、緊急事態宣言下にある「東京」に、205カ国・地域から約1万1千人もの選手が集い、「絆」が育まれた。差別や貧困などコロナ禍により世界では分断が顕在化している中でのことだ。数々の制約を乗り越え、開催したからこその果実であり、「レガシー(遺産)」だった。

 一方で、五輪開催を通して負の側面も浮き彫りになった。コロナ禍の不安や疑心暗鬼が増幅したであろう「悪意」は、SNS(交流サイト)上にあふれた。選手への誹(ひ)謗(ぼう)、中傷だ。強権的な政治体制を背景に選手の亡命も起きた。IOCの独善的な体質も改めて認識された。五輪は社会が抱える問題を可視化する。4年に一度「絆」を確かめ、社会の影の部分をも再認識する-五輪が存続してきた理由なのかもしれない。

 困難と向き合うことの大切さを改めて認識した17日間。「東京」に灯された聖火は消えるが、示された問題と向き合っていかねばならない。今後も続くであろうコロナ禍に負けないためにも。(運動部長 金子昌世)

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