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20億円が8兆円に育つ…孫正義が出資を決めるときに“実績”より重視すること (3/3ページ)

 ■「それはやっぱり…、狂ったほどの情熱ですよね」

 私はインドのベンチャー起業家に会って、話をしたことがある。彼はこう言っていた。

 「日本人に投資してもらいたい。そうすれば世界の投資家が付いてくる。そして、できればミスター・ソンに投資してもらいたい」

 アメリカ人が主投資家だったら、イスラムや中国人が投資しないことがある。中国人が主投資家だったら、今度はアメリカ人がお金を出しにくい。その点、日本人が金を集めてくれれば、どこの国の人間も投資できる。そして、日本人投資家の筆頭はミスター・ソンだ……。

 お金を出してもらう側もちゃんと合理的に考えている。どんなお金でもいいとは思っていない。

 このように、日本人は投資家に向いているのだけれど、しかし、日本の銀行、金融機関、大企業が組成したファンドが大成功したとか、日本企業が買収した海外企業が成長した話はあまり聞いたことがない。

 例外があるとしたら、EV(電気自動車)のテスラ草創期に投資したトヨタくらいのものだろうか。

 そうして、何をしても、孫正義は叩かれるのだけれど、それでも彼は主張する。

 「(事業の成功に)何が必要なのか。それはやっぱり……、狂ったほどの情熱ですよね」

 ■東日本大震災で100億円を寄付した思い

 孫正義が決断した瞬間のなかで、他の経営者よりも突出しているのが寄付であり社会貢献だろう。

 本来、経営者は仕事を通じて、企業を成長させ、人を雇い、税金を払って国家や地域に貢献すればいい。それだけで十分と言える。

 それなのに、孫正義は大金を個人で寄付する。

 東日本大震災の後、彼は100億円の義援金を拠出すると表明した。さらに、ソフトバンクグループから10億円、引退するまでの自らの報酬全額を寄付し、これに関しては震災遺児の支援に回すと決めた。

 このとき、彼は「売名行為だ」「ほんとに払ったのか」といった非難を受けている。それでも寄付はやめない。

 コロナ禍ではマスク、フェイスシールドなどをはじめとする防護具を、政府・自治体・民間企業・医療機関などに無利益で提供した。さらに、唾液PCR検査を提供するための100%子会社を設立し、1回2000円(税抜・配送料、梱包費などを除く)という破格の値段で検査を提供している。

 ■たとえ儲からなくてもやらずにはいられない

 なぜ、彼は災害や感染症の蔓延で困った人たちを見ると寄付をするのだろうか。売名行為ではない。彼以上に有名な経営者はいない。売名する意味はない。目立ちたくて寄付をしているわけではない。

 では、なぜなのか。

 寄付をする人というのは、困っている人、苦労している人を見ると、考える前に体が動いてしまうのだ。

 やらずにはいられないからやる。そのときは他人の目は気にしていないし、自分の懐もそれほど気にならない。孫正義もそういう「やらずにはいられない」人たちのなかのひとりなのだろう。

 その証拠に、仕事の内容を見ていくと、「やらずにはいられないからやった」ことが出てくる。

 2004年、彼は八丈島にADSLのブロードバンドサービスを提供した。離島にブロードバンドのサービスを開始したのはソフトバンクグループが初めてだった。孫は「八丈島にブロードバンドを推進する会」メンバーから直訴を受け、困っている人たちのために離島にブロードバンドの施設を建設した。儲かるとは思わなかったが、誰かがやらなくてはいけないと感じたのだ。

 

 野地 秩嘉(のじ・つねよし)

 ノンフィクション作家

 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。noteで「トヨタ物語-ウーブンシティへの道」を連載中(2020年の11月連載分まで無料)

 

 (ノンフィクション作家 野地 秩嘉)(PRESIDENT Online)

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