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大統領・州知事・気風…米で「マスク義務化」禁止めぐり対立相次ぐ

 【ワシントン=大内清】新型コロナウイルスの感染が再び急増している米国で、新学年を迎える学校でのマスク着用を義務とすべきか否かが論争となっている。南部フロリダなど共和党が優勢な州で、マスク義務化を禁じる知事命令や州法成立が相次いでいるためだ。バイデン大統領はこれまで、新型コロナ対策が政治争点化するのを避ける姿勢を示してきたが、この問題では10日、マスク義務化に反対する知事らを「不誠実だ」と批判し、いらだちをあらわにした。

 「義務化反対論」の急先鋒が、次期大統領選への出馬も取り沙汰されるフロリダ州のデサンティス知事(共和党)だ。7月末に出した命令で「マスクの長時間着用は子供の健康を損ねる恐れがある」「判断は各家庭がすべきだ」などとして、各学校が生徒らにマスク着用を義務づけるのを実質的に禁じた。

 同様の動きは、いずれも共和党系が知事を務める南部アーカンソー、オクラホマ、サウスカロライナ、テキサス、西部アリゾナ、ユタなどの各州にも広がっている。これらの州は、ワクチン接種を完了した人の割合が全国平均(50・3%)よりも低い。

 これに対し、「一部がマスクを着用しないことで、マスクをしている他の生徒の感染リスクが高まる」と反発する親や学校関係者も多く、州への抗議や提訴の動きが拡大。テキサスの一部の郡などではマスク義務化を認める司法判断が下され、州当局との対立が深まっている。

 米国では7月、インド由来の変異株(デルタ株)の急拡大を受け、公衆衛生政策を統括する疾病対策センター(CDC)が学校再開に向けた指針として、ワクチン接種の有無にかかわらず全生徒や教師がマスクを着用すべきだと勧告した。だが、感染拡大の勢いは衰えず、今月5日までの1週間に確認された未成年者の感染は全米で約9万4千人と、前週から約25%増加。新学年に入り各地で対面授業が再開されれば、事態はさらに深刻化すると懸念されている。

 にもかかわらず、デサンティス氏らが「マスク義務化」に強く反対するのは、連邦政府からの干渉を嫌い、「自由」を重んじる気風が強い南部保守層へのアピールとなるためだ。

 また、「バイブル(聖書)ベルト」とも呼ばれる南部に多い保守的なキリスト教福音派には、進化論などの聖書に反する教育が行われているとして、公教育システムそのものに批判的な人も多い。

 これらを背景に、フロリダでは6日、事態をさらに複雑化する決定が下された。マスクを義務化した公立校から私立への転校を希望する生徒がいる場合、転出元の公立校の予算を削り、その分を学費として補助する-としたのだ。この制度は本来、いじめ問題への対策として導入されたものだが、予算を盾にしてマスク義務化を諦めさせ、公立校の立場を弱めることにも利用されている形だ。

 一方で、事態を甘くみたことを悔やむ声も出始めている。アーカンソー州はワクチンの普及で感染が大きく減少した4月にマスク義務化の禁止を法制化しているが、ハチンソン知事は今月4日、州内の新規感染者の約2割を18歳以下が占め、ワクチン接種対象外である12歳未満が大きな危険にさらされているとしたうえで、「法律にしなければよかった」と嘆いた。

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