経済#word

#男性育休 イクメン化後押し、企業も利点

 来年4月から男性の育児休業制度が大きく変わる。企業が育休取得を働きかけることが義務化されるほか、同年10月からは育休を分割して取ることも可能となる。これまで伸び悩んでいた男性の育休取得が進むことが期待される一方で、「育児は女性がやるもの」といった意識は根強く、企業の取り組みもまだ低調だという現実がある。

前向き企業は少数

 「新生児はおむつを1週間に100回替えてあげる必要があります。1日数回で育児をしているつもりになっていませんか」

 育休の100%取得を目指す第一生命保険が9月22日に同社の男性社員を対象に開催したセミナー。講師のNPO法人ファザーリング・ジャパンの塚越学理事の問いかけに、参加者たちは苦笑いを浮かべた。

 約2時間のセミナーでは、育児負担の大きさや、子供との時間が人生においていかに重要であるかなどについて解説。受講した佛性寛之さん(36)は、「自分ではイクメン(積極的に子育てに関わる父親)だと思っていたが、改めて考えさせられた」と述べた。今後、育休の期間延長を検討したいという。

 今年6月に改正育児・介護休業法が成立したことを受け、同社のように育休取得に力を入れる企業は増えている。育休は養育と仕事を両立させるために、原則として子供が1歳になるまで男女ともに取得ができる制度だ。ただ、同社のように前向きに取り組む企業はまだ少数派だ。厚生労働省の令和2年度雇用均等基本調査によると、男性の育休取得率は12・65%で過去最高となったが、女性の81・6%と比べると差は大きい。

まだ女性に負担偏り

 女性の社会進出が急速に進む一方、育児についてはまだ女性に負担が偏っているのが実態だ。女性への過度な負担は少子化の要因の一つともされる。このため、今年6月に成立した改正法には、男性が育休を取得しやすくするための対策が複数盛り込まれた。

 具体的には、来年4月から企業に対し、子供が生まれる従業員一人一人に育休取得を働き掛けるよう義務付けられる。会社が率先して声をかけることで、育休を取得しやすい環境を醸成することがねらいだ。

 来年10月からは1回の取得が原則だった育休を分割して2回まで取れるようになる。男性はさらに、子供が生まれて8週間以内に計4週分の休みを2回に分けて取れる「出生時育児休業(男性版産休)」が新設されることから、育休を最大4回に分割して取得することが可能となる。仕事の繁忙期を避けながら複数回取得したり、妻と交互に取得したりするなど、制度利用の自由度を高める。

生産性にも向上

 男性の育休取得が進めば、企業にとってもメリットは大きい。女性社員をつなぎ留めることはもちろん、育休を取得した社員は、会社への忠誠心が高まるといった調査もある。業務の引き継ぎが必要となるため、仕事の標準化が進み、生産性向上にもつながるとされる。企業の社会課題への取り組みなどを投資判断の基準とする「ESG投資」が浸透する中、投資を呼び込む観点でも重要だ。平成30年に男性社員による1カ月以上の育児休業完全取得を宣言した積水ハウスの担当者は「社員の人間性が深まり、顧客からの信頼感も増している」と話す。

 一方で、慢性的な人手不足にあえぐ中小企業などを中心に、育休取得に後ろ向きな企業は多い。厚労省が今年1、2月に実施した調査でも、約6割の企業が男性の育休取得を促す取り組みについて「特に実施していない」と回答した。

 ただ、日本総合研究所の井上恵理菜副主任研究員は「むしろ人材獲得の面で育休取得は重要だ」と話す。育休すら取れない企業は、より期間の長い介護休暇なども取れる下地ができていない可能性が高く、若い人ほどこうした企業は敬遠する傾向があるからだ。井上氏は「育休は多くの人が初めてワークライフバランスを体験する重要な機会。取得する人が増えることは多様性のある企業にもつながる」と話している。

給付充実 実質賃金の8割保障

 男性育休の取得が進まない理由は多岐にわたる。厚生労働省が、育休を取得しなかった理由を複数回答で聞いたところ、最も多いのが「収入を減らしたくないから」で、約4割の人が選択した。

 ただ、育休を取得した際に雇用保険から支給される育児休業給付金は、拡充傾向にある。現在は最初の半年は賃金の67%、それ以降は50%を受け取ることができ、社会保険料の免除もあるため、賃金の実質8割が保障される仕組みになっている。平成7年の制度創設時の25%と比べれば、環境は大きく改善しているのも事実だ。

 他の理由で目立つのは「取得しづらい雰囲気や上司などの理解がない」「業務が繁忙」「自分にしかできない仕事がある」といった声だ。こうした声は、働き方の工夫や、意識改革で解消できる部分も多い。新制度への移行を機に、各企業には前向きな取り組みが求められそうだ。(蕎麦谷里志)

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus