砂糖とエタノールを同時増産 「逆転生産プロセス」ヒントはパチンコだった

2013.3.31 18:00

 アサヒグループホールディングスは昨年10月、サトウキビから生産できる砂糖の量を大幅に増やしながら、バイオエタノールも併せて生産する技術を開発した。

 トウモロコシなどからも作れるエタノールは化石燃料の代替品として需要が高まるが、大量生産をすれば食糧不足を招く恐れが指摘されていた。同技術を使えば、食糧の生産量を減らさずにエネルギーを生産できることから、食糧とエネルギーの双方の問題解決につながると期待が高まっている。

 独立行政法人の農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)との共同開発で生まれたこの技術は、砂糖とエタノールを従来と逆の順序で作る「逆転生産プロセス」と呼ばれる。

 サトウキビにはショ糖、ブドウ糖、果糖の3種類の糖が含まれているが、砂糖を生成するのはショ糖のみ。従来工程では、サトウキビの絞り汁をショ糖とそれ以外の糖分(還元糖)に分解した上で、ショ糖のみを砂糖として回収し、残った還元糖に酵母を加えてエタノールを生成していた。

 だが、エタノールの元となる還元糖はショ糖生成を阻害する働きがあるため、還元糖の含有率が高いサトウキビは砂糖の生産性を著しく落とす性質が問題視されていた。還元糖の含有率が低い品種は1~3月にしか収穫できず、台風で折れた粗悪なサトウキビなどから効率よく砂糖を取り出すことは、精糖会社や農家にとって課題だった。また、そうした性質が砂糖の生産コストやサトウキビの価格高騰を招く要因にもなった。

 同社は、こうした問題に対応するため、06年から農研機構と共同で沖縄県の伊江島で本格的にエタノールに関する研究開発をスタート。単一面積で砂糖とエタノールを従来の1・5~2倍採取できる新品種を開発するなど成果をあげた。

 しかし、精糖会社にとってエタノールを生成する還元糖は砂糖生成を阻害する“不要”なものとして受け止められ、還元糖を多く含む新品種の評判は芳しくなかった。

 「還元糖だけを除去できれば、どんなサトウキビからも効率よく砂糖を採取できるのだが…」。バイオエタノール技術開発部の小原聡部長は頭を抱えた。同年の夏。妙案が浮かばないまま都内に戻り、気分転換にパチンコを打ちに行った。

 「パチンコはまず役物の羽根を開かせ、その中にある大当たりの穴を目指す。玉を入れる順番と重要度が逆だな」。何気なくパチンコ台を眺めているうちに、この関係がエタノールと砂糖の関係にリンクした。

 「重要でないエタノールを先に生成できれば、残りはショ糖だけになるのではないか」。「逆転生産プロセス」の糸口となる発想を閃いた瞬間だった。

 以前読んだ文献で、還元糖だけを分解する酵母が存在することを思い出し、すぐに実証実験が始まった。サトウキビの絞り汁に還元糖だけを選択的に発酵する特殊な酵母を加えることで、ショ糖と還元糖をほぼ完全に分離することに成功。還元糖をエタノールに変換・除去した後、絞り汁に残る高純度のショ糖から砂糖を効率良く生産することが可能になった。

 これにより、ショ糖成分の10~15%しか砂糖にならなかった品種でも、新技術により最大で約4倍となる65%以上も砂糖に転化することもできた。

 さらに、ショ糖取り出した後に残った糖蜜から砂糖を作ることもできれば、従来の酵母を加えることでエタノールの生成もできようになり、需要に応じて砂糖とエタノールの生産比率調整をも可能にした。

 「サトウキビは栄養分の少ない土地でも育つ植物で、土地の緑化にも貢献する大きな可能性を持っている」と小原さん。今後は15年をめどに同技術の実用化を目指し、砂糖とエタノールの自社生産や技術販売などさまざまな形でのビジネスチャンスを模索する。

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