国産木材活用し新規市場を創造 電通など 産業振興と環境保全

2013.7.8 05:00

 国産木材の有効活用を促進することで、木材産業を活性化するとともに環境保全に結びつける活動が動き始めた。電通が国産材の新規需要発掘に向けた商品開発などに乗り出す一方、環境ビジネス支援のグリーンプラス(東京都文京区)と読売広告社は森林を企業のマーケティング手段として役立てる取り組みで立ち上がった。

 「森林のサイクル」

 「日本の森林資源を『守る』時代から『活かす』時代に移行しているととらえている」

 7月3日に東京都港区の電通ホールで、新たな木材ビジネスについて考える電通主催のフォーラムが開催された。その冒頭で同社の畔柳一典ソーシャル・ソリューション局長は、約200人の来場者を前に、植えて育て活用する「森林のサイクル」を作る決意を表明した。

 その実現に向け同社が5月に発足したのが「ウッド・イノベーション・プロジェクト」。収穫した原木を製材品や精密加工を経て流通させる供給側と、木材製品を使う生活者側を結ぶ仕組みの構築が狙いだ。

 活動の一つが、電通の企画・デザインを全国各地の木材加工会社が具現化する連携策。例えば木製の祝儀袋などの生活用品の商品化を計画する一方、光を透過する木製シートで動物をモチーフにした発光ダイオード(LED)内蔵アート作品の開発に取り組んでいる。

 環境プロジェクト部の國重亜希プロデューサーは「国産木材の価値を高めて需要を作り供給者を潤したい」と語る。この考えのもと、木材活用を考える企業向け広告提案も行う方針だ。

 一方、グリーンプラスは森林を生かした環境マーケティング分野で、5月に読売広告社と業務提携した。

 両社は企業向け山村体験ツアーに注力。ツアーを通じて間伐などの森林管理に伴い増大する二酸化炭素(CO2)吸収量を算出してCO2排出権(クレジット)にする活動を紹介し、参加者はクレジットの背後まで学ぶ。

 両社は、社会貢献とビジネスの両立に意欲的な参加企業が山村に出向き魅力を引き出す流れを広める。例えば間伐材を用いた「カーボンオフセット付きジュース」の販促が想定される。

 カーボンオフセットは日常生活や経済活動で発生したCO2をクレジットで相殺(オフセット)する仕組み。消費者はその商品を購入すると間接的に環境に貢献できる。飲料メーカーは森林整備と地球温暖化防止を支援する姿勢を伝えられる。

 グリーンプラスの飯田泰介代表取締役は「国内の森林で作られたクレジットをきっかけに山村と企業が個人レベルで結びつきを強めてほしい」と話す。

 各地で高まる機運

 森林を巡る民間各社の動きが熱を帯びる背景に、日本には豊富な木材資源があるにもかかわらず生かし切れていない実情がある。林野庁によると、森林資源の蓄積量は2012年に約49億立方メートル。国内木材需要量に相当する約8000万立方メートルが毎年蓄積されている。

 それだけに新規市場を創造し木の多面的な役割を広く認知させることは喫緊の課題だ。すでに木製建具や人工大理石などを得意とする4社の若手が集まって、新たなものづくりを目指す「ディ・シー・ツー有限責任事業組合」(福島県伊達市)を設立するなど、各地で市場開拓の機運が高まりつつある。

 林野庁は4月、スギやヒノキなどの「地域材」を活用した木造住宅の新築や木材製品の購入などの際にポイントを発行し、地域の農林水産品などに交換できる「木材利用ポイント事業」を始動。この制度は電通のフォーラムでも話題となり、「森林資源の需要拡大の起爆剤」(畔柳局長)として関係者の関心を集めた。

 電通などの旗振り役を軸に需要喚起の協力者が増えれば、森林を適切に整備しCO2吸収機能を増大させる動きも広がる。国産材の出口を作る挑戦から目が離せない。(臼井慎太郎)

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