【底流】花王、真の統合へカネボウに大なた 「白斑問題」転機となるか

2013.12.10 06:00

 花王が7年前に子会社化したカネボウ化粧品と、真の一体化へ向けた動きを加速している。化粧品としては一日の長があり、ブランド力も強いカネボウに対する遠慮から、これまで進められずにいた生産や研究の一体化を打ち出し、さらに販売部門の統合も視野に入れて、統合を推し進める。カネボウ再生に向けて花王が振るう大なたは、先送りされた改革の実現に向けた第一歩だ。

 買収後も独立性尊重

 「あっという間に完売しました」

 美白化粧品で肌がまだらに白くなる「白斑」問題も冷めやらぬ11月上旬、東京都内の百貨店担当者は、やや驚きをにじませてこう話した。この日は、カネボウの高級化粧品ブランド「ルナソル」のクリスマス限定商品の発売日。同店では午前中にすべて完売したという。

 花王の沢田道隆社長は、カネボウの化粧品の魅力について「他には出せないテイストのカラーなんです」と説明する。花王は「ソフィーナ」など独自の化粧品ブランドを持つ。

 「ものづくりを含めて、『花王』テイスト」(沢田社長)が根付いた自社ブランドに、別の色を取り入れようと、花王はカネボウを傘下に収めた。

 「カネボウらしさをなくすと買収した意味がない」と、花王はカネボウの独立性を常に尊重してきた。花王はカネボウを子会社化した後も、カネボウの労働組合の存続を認めたほか、研究や生産、販売部門も別々の組織としてきた。カネボウらしさを保つため、独立性を維持するという花王側の“遠慮”の表れだった。

 破談のしこりは今も

 かつて旧カネボウは、事業多角化の失敗で平成15年に花王と化粧品事業の統合方針を発表した。

 だが、旧カネボウ労働組合は、労組がない花王の傘下入りに強く反発。統合方針は破談となり、旧カネボウは産業再生機構の支援を選択した。

 その後、旧カネボウは16年に化粧品事業を分離し、カネボウ化粧品を発足。18年に花王が再び買い手となり、カネボウを完全子会社化した。花王の尾崎元規社長(当時)はカネボウの独立性を尊重すると表明し、人事改革などの課題を「実質的に先送りした」(関係者)経緯がある。

 このため、「いまだに花王に対するアレルギーがなくならない」とこぼすカネボウ関係者もおり、両社にはしこりが残っていた。

 「もっと早く知りたかった」「本来ならスキントラブルと認識すべきところを病気と認識し、チェックシステムに入らなかった」「製品開発のプロセスで自主基準が甘かった」

 白斑問題を受けて、7月に開いた最初の会見で、カネボウの夏坂真澄社長は、数々の悔恨の言葉を口にした。

 花王は徹底した品質管理システムや、顧客からの情報を吸い上げる仕組みを持つ。だが、独立性を尊重するあまり、カネボウ側の製品には、花王のシステムが全く生かされていなかった。夏坂社長のざんげは、両社の一体化が果たされていれば、早期に改善が可能だったという問題の本質を浮き彫りにした。

 回収後1カ月で対応

 問題を重くみた花王は“遠慮”をぬぐい去り、急速に一体化へ舵を切った。

 自主回収発表のわずか1カ月後には、花王とカネボウの品質管理部門を一体化。続いて研究・生産態勢の一体化も発表し、花王によるカネボウの取り込みを加速した。

 迅速な危機対応が可能だったのは、かねてから沢田社長がカネボウの独立経営に対し、問題意識を抱えていたからだ。

 「(花王とカネボウが)一つ屋根の下で、もう一段高い経営をするには、一体化しなくてはいけないという意識を持っていた」

 沢田社長はこう打ち明ける。過去に先送りしてきた両社の一体化は、白斑問題で焦眉(しょうび)の急となった。

 ただ、改革に向けた道のりは決してスムーズではない。研究開発や生産と違い、消費者に直接、カネボウらしさを伝える役割を担う販売部門の一体化は、まだ今後の課題だ。

 「花王の『ソフィーナ』と『カネボウ』という2つのブランドの“らしさ”を出して大きな化粧品の世界を築き、グローバルに展開したい」(沢田社長)というように、一体化とブランドの個性の両立という相反する課題の解決には、まだ時間がかかる。

 白斑問題の被害者に対する補償問題と並行して進められる、真の統合に向けた諸施策のハードルは、予想以上に高く険しい。(兼松康)

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