ベンチャー活性化のカギは「ものづくり」にあり! 若者のアイデア×熟練の町工場の仕掛けも

2014.1.28 16:43

 大企業中心の日本のビジネス風土にいかに「起業文化」を吹き込むか…。バブル崩壊後、さんざん唱えられながらもなかなか答えがみえないテーマだ。そんななか、研究プラットホームベンチャーのリバネス(丸幸弘代表取締役CEO)が打ち出した一手は、「ものづくりベンチャー」だ。ベンチャーといえばとかくIT、ウェブ系に目が行きがちだが、日本の底力はものづくりにこそあるはず。そこに起業文化を吹き込むことができれば、日本がもう一度世界を席巻する日も夢ではない…。そんな意気込みで26日に、東京都内で開かれた「ものづくりベンチャー・ビジネスコンテスト」の現場を取材した。

 「『こんなおもしろいものができます』というプレゼンはいりません。できたもので、どう世界を変えていくか、それをプレゼンしてください!」

 26日夕。リバネスが主催する「第1回テックプラングランプリ」キックオフイベントの会場として提供された港区の日本たばこ産業(JT)本社内会議室で、リバネス丸CEOの檄が飛んだ。

 会議室内に集まったのは、10代から50代までのベンチャー経営者、および予備軍22組。3月のゴールをめざして、これからビジネスプランを競い合う。

 この日はそれぞれの参加チームが3分間のピッチ、つまり自らのビジネスについてのプレゼンを行った。プレゼンは日本人が苦手な分野だ。立て板に水、とあることないこと売り込みまくるのが当たり前とされる海外に比べ、日本人のプレゼンはどうもおもしろくないことが多い。口下手な職人気質が強い「ものづくり」は特に…。

 そんな先入観はあっという間に打ち砕かれた。とにかく、おもしろいのだ。

 「実はぼく、18歳でして…しかも浪人生でして…」。さらりと漏れた発表者の一言に会場がわく。「おまえ、こんなことしてて大丈夫か!」

 といって、壇上の発表者に動じる様子はない。「世界を変えたいんです」。入試シーズンの最中にあって、18歳は平然としている。

 発表者のメーンは大学生だが、大企業、それも業績好調の超一流企業を辞めてきた参加者もいる。家業が町工場という「ものづくり保守本流」もいれば、ウェブ系のエンジニアからの転身組もいる。主なテーマを列挙してみよう。

 ・パーソナルな世界を宇宙と結びつける

 ・言語を使わずに気持ちを結びつける

 ・持続可能な宇宙ビジネスを構築する

 ・子供が飽きないおもちゃを作る

 ・全く新しい発電の仕組みを作る

 などなど。

 これだけではなんのことかまったくわからないが、個別のアイデアの流出を防ぐため、あえて具体的なビジネスプランの中身はここには記さないことにした。

 実はこの「テックプラングランプリ」、リバネスの周到な準備が下地にある。ものづくりがわが国の強みといっても、ベンチャー的な手法でものづくりに取り組む場合はどうしても設備や資金の問題に直面する。パソコンさえあれば始められるIT系のベンチャーと違って、ものづくりベンチャーは具体的な製品を作る必要があるからだ。

 難問解決へリバネスが目をつけたのが「町工場」だ。地盤沈下が叫ばれて久しい日本の町工場は、実は世界に冠たる技術と設備の宝庫。それを、若者たちのアイデアと結びつければうまくいくはずだ…。そんな読みの下、リバネスのスタッフは昨年一年間かけて、約3500軒に及ぶ墨田区の町工場群を足を棒にして訪ねて回った。

 この日は町工場代表として、昨年話題を呼んだ深海探査艇「江戸っ子1号」プロジェクトにも関わった浜野製作所の藤林豊典取締役副社長もあいさつ。「ガレージ・スミダでみなさんのアイデアをお待ちしています」と呼びかけた。

 一足飛びにこのビジネスコンテストから成功者が続々登場すると期待するのは早計だろう。プレゼンは爆笑に次ぐ爆笑だったが、冷静に考えれば「おもしろすぎる」のも考えものだ。グーグルやフェイスブックがベンチャーだったころ、創業者たちはどんなプレゼンをしていたのか。「原石」がそこいら中にごろごろと転がっているわけでは必ずしもない。

 ただ、「ものづくり」の分野にベンチャー精神を注ぎ込むという試みが予想以上の化学変化を生み出す可能性もかいまみえた。

 「これまでプロトコルの中で仕事をしてきたから…」。あるウェブ系エンジニアがぽつりと漏らした一言だ。プロトコル、つまり「お作法」とでもいえばいいのか。本来、ベンチャーとはもっとも遠いはずの「プロトコル」が、実はITの世界では必須となっている現状。それが自由な発想や挑戦を阻んでいるという感覚が、みてとれた。

 「ものづくり」とベンチャーを接続するというリバネスのやや強引な試みが、そんな風土に風穴を開ける可能性はありそうだ。(産経デジタル事業開発室長 松尾理也)

◇リバネス http://lne.st/

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