介護ロボ、コラボで開発加速 産学、異業種 350億円市場狙う

2014.3.14 05:52

 介護ロボットの開発に向けた産学連携や異業種間提携が活発化している。大学や企業がそれぞれ独自の技術やノウハウを持ち寄り、事業化のペースを速めることで先行者利益を狙う。介護ロボ市場は立ち上がったばかりだが、急速な高齢化を背景に2020年度には350億円市場に成長するとみられており、競争は白熱しそうだ。

 東京理科大学は金型メーカーの菊池製作所と組んで、同大学発のベンチャー「イノフィス」を設立した。工学部の小林宏教授による研究成果「マッスルスーツ」の製品化を目指す。

 このスーツは着用者の背筋力をサポート。とくに腰への負担を軽減し、介護現場だけでなく物流や工場など重量物の上げ下ろしを楽に行えるようになる。小林教授は「これだけ力を発揮でき、あらゆる領域で使用できるスーツはない。高齢者が自立した暮らしを行えるようにし、精神的な負担からの解放につなげていきたい」と意欲を示す。

 実はこの計画には当初、大手メーカーが参加予定だったが、撤退した。2012年度の介護ロボットの出荷額はわずか1億7000万円。この大手メーカーは事業化リスクが大きいと判断した。

 これに対し、菊池製作所は「小さな会社でも、自社製品を武器に新たなマーケットを構築できる」(菊池功社長)と見て、生産を行うことにした。30万~50万円の価格で製品化し、16年度に5000台の販売を目指す。同社は福島県飯舘村に工場があるが、同県南相馬市にも新工場を建設し、量産体制を整えることも視野に入れる。

 高齢化社会向け住宅

 大学発の介護ロボ事業では、筑波大学大学院教授でロボットベンチャー、サイバーダイン(茨城県つくば市)社長の山海嘉之氏が開発したロボットスーツ「HAL」も注目を浴びている。介護住宅や介護ロボ事業に積極的な大和ハウス工業がHALの販売やリース、レンタルを担っている。サイバーダインは今月26日に東証マザーズに上場し、約30億円を調達。事業拡大を加速する計画だ。

 一方、大和ハウス同様、介護住宅に力を入れている積水ハウスも医療機器などの制御システムメーカー、マッスル(大阪市中央区)と提携した。ロボットと要介護者の間に人を介在させることで、人のぬくもりがある介護を実現できるロボット技術の実用化を目指す。石井正義・総合住宅研究所長は「良い季節には寝たきりの人を外に連れ出せるようにするなど、ロボット技術を活用すれば住宅がどのように変わっていくのかを検証し、高齢化社会向けの住まいの提案に力を入れる」と語る。

 また、介護大手のツクイは国立長寿医療研究センターと組み、ホンダの歩行支援ロボットの共同研究を進めている。

 海外展開にも弾み

 こうした産学連携や異業種提携を通して製品化のスピードが増すことで、介護ロボ市場の成長ペースは加速しそうだ。矢野経済研究所によると介護ロボットの国内市場規模は、15年度に23億円に拡大。20年度には350億円に達する見通しだ。

 それ以降も堅調に推移する可能性が高い。慢性的な人手不足に直面している介護現場では今後、団塊世代の高齢化により一段と介護ロボの需要が高まるためだ。介護のほか、物流や生産拠点への導入も見込まれる。

 また、国際標準化機構(ISO)が新たに作った生活支援ロボットの安全規格に、日本の研究者が提案した規格が採用された。安全面で日本の技術が優位に立て、開発や普及、海外展開にも弾みがつくことになる。(伊藤俊祐)

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