トヨタ小型商用バン“前代未聞の離れ業” 働く人を元気にするクルマ

2014.8.18 12:15

【ビジネスのつぼ】

 営業マンの声反映 使い勝手見直し

 トヨタ自動車は小型商用バン「プロボックス」「サクシード」を12年ぶりに大幅刷新し、9月1日に発売する。燃費は従来モデルに比べ、約18%向上し、最大18.2キロとなるなど、全車種が減税対象車となった。2015年の燃費規制をクリアするために、新エンジンとCVT(無段変速機)を採用することが刷新の目的だったが、「この機会を活用してもっといい車にしよう」と、実際に利用する営業マンの声を聞き、内装や乗り心地を徹底的に見直した。

 利用実態を細かく把握

 「自家用車ではないので、優先順位の上位は外観ではない。荷物を積める容量にも不満はなかった。移動のため、朝から晩まで車内で過ごすユーザーが多いので、使って楽な車にしたかった」

 今回のプロボックス、サクシードを担当した商品企画本部の下村修之主査は、こう強調する。

 大幅刷新が決定した11年、全車種を減税対象車とすることに加え、まずは営業マンが実際にプロボックス、サクシードをどう利用しているのかの利用実態を把握することから始まった。

 取引先の部品メーカーやセールス業、建設業、個人商店など70~80社の営業車を調べた結果、分かったのは車内が乱雑になりやすいということだった。

 ドアに付くポケットは、書類を収納することを想定して付けられたが、実際は「雨が降っているとドアの開閉時に書類がぬれるため、ゴミ入れとしてしか使われていなかった」(岩月明主幹)。コインホルダーも、「上司から『外からみえる場所にあるので、置いておくと盗まれる。別に管理するように』などとして利用されていない」(岩月主幹)ことも分かった。

 今回の大幅刷新に際しては、こうした実際の営業マンなどの利用実態を細かく把握し、「使う人目線でのクルマづくりを目指した」(下村主査)という。

 こうした聞き取り調査をして取捨選択した結果、特にトヨタが重要と判断したのが、携帯電話、A4サイズのファイル、ペットボトル、カバン、弁当の置き場を運転席から手の届きやすい場所にスペースを設けることだった。

 例えば、カバンは利用者の多くがこれまで助手席に置いていたが、取り出しづらいうえブレーキをかけた際にシートから足元に落ちるケースが多かった。これを、運転席と助手席の間にスペースを設け、落下を防ぐとともに、カバンを取りやすいように変えた。

 また、コンビニエンスストアなどで飲食物を購入した際のレジ袋をかけられるフックを新たに設けた。これまでペットボトルを置いていたドリンクホルダーには、1リットルの紙パックに加え、水筒が置けるマルチ収納棚に変更。テーブルは、弁当のみならず、みそ汁なども置けるよう広くした。車内にいる時間が長い営業マンのための細かい心配りが随所にみられる。

 前代未聞の離れ業

 だが、荷室空間はそのまま維持した。直線的なボディーラインや、ホイールの張り出しを極力抑え、「箱を積みやすい」と評判だったからだ。

 乗り心地の向上と荷室を両立させるため、荷室後部の車台(プラットホーム)はそのままに、前方部分のみに「ヴィッツ」など小型乗用車に使われている乗り心地の良さが向上できる車台を用いるという、前代未聞の離れ業をやってのけた。幅が合わないなどの問題もあったが、幅を詰めるなどしてこれを解消したという。

 今回、下村主査が何よりも目指したのは「働く人を元気にするクルマ」。車両の購入を決める購買担当者も、「毎日仕事として使う営業マンにも納得してもらえるクルマだと思う」と自信を示した。(飯田耕司)

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