パナソニック傘下で解体進む三洋電機 優秀な人材は次々と去っていった…

2014.11.5 11:30

 大手総合家電の一角だった三洋電機が“消滅”に向けてカウントダウンに入っている。平成21年にパナソニックの子会社になった後、白物家電やデジタルカメラなどの多くの事業が「グループの既存事業と競合する」と重複を理由に相次いで売却された。創業の地にある本社ビル(大阪府守口市)は守口市と売却交渉が進んでおり、近く本社機能は同大東市の事業所に移転する。今年4月にはパナソニック出身者が初めて社長に就任。かつて2次電池やカーナビで個性的なヒット商品を飛ばした三洋の痕跡はなくなりつつある。(藤原直樹)

 完全統合大詰め

 「パナソニックによる三洋の完全統合もいよいよ大詰め段階に入った」

 パナソニックが来年4月から三洋と人事制度の一本化を検討しているとニュースで報じられたことについて、ある金融関係者はこう指摘する。

 パナソニックは三洋の子会社化後も登記上の法人格を存続させている。ただ、三洋の事業の多くがすでに売却され、約10万人だった社員は散り散りになった。残った社員は1割以下の7千人程度。今年に入って本社勤務の財務や人事、法務などの間接部門の社員を対象に早期退職の募集が行われた。

 売却されずに残った太陽電池などの事業はパナソニックの事業部に統合され、社員の多くは三洋に籍を残したまま出向の形をとり、パナソニックの社員より低い給料で働いている。法人格が残されているとはいえ、人事制度が一本化されれば両社の統合は実質的に完了するといえる。

 子会社化後も三洋に残った社員の1人は「三洋が解体されていくのは正直さみしい」としつつも、「パナソニックの一員として前を向いてがんばっていくしかない」と話す。

 切り売りの果て

 パナソニックが三洋買収で合意したのは、リーマン・ショック直後の平成20年12月だった。当時、パナソニックが三洋の事業で最も期待していたのが、リチウムイオン電池やニッケル水素電池などの「2次電池」だった。

 リチウムイオン電池の世界シェアは三洋が23%、パナソニックは8%。とくに三洋の技術力は高く評価されており、両社の電池事業の統合で世界的な「電池メジャー」が誕生するはずだった。

 ところがこの電池が買収の足を引っ張った。両社が2次電池で高いシェアを占める米国で独占禁止法の審査が遅れ、子会社化に1年を要す結果となった。

 この間、円高に加え、中国や韓国メーカーの台頭で三洋の事業競争力が低下。パナソニックは買収に8千億円を投じたが、三洋の企業価値低下に伴う損失だけで約5千億円の損失を出したとされる。

 結果、両社が重複する冷蔵庫や洗濯機などの白物家電やデジカメなどの事業は海外企業などに相次いで売却された。残った事業でも三洋出身者は“冷遇”され、優秀な人材の多くが三洋を去ったといわれる。

 現在のパナソニックでは取締役はおろか、事業部長レベルでも三洋出身者はほとんどいない。パナソニックが三洋同様に子会社化した旧パナソニック電工の組織や事業がほぼそのまま残されているのとは対照的な状況となっている。

 技術の残滓随所に

 パナソニックは「急ぐ必要はない」(幹部)と当面、三洋の法人格を残す方向だが、創業の地にある本社ビルはすでに人影は少ない。

 守口市はビルを所得後、老朽化した市役所に代わる庁舎として平成29年4月から使用する方針で、現在本社ビルに勤務する三洋の従業員約400人の大半は今年度中に大東事業所に移動する。

 その大東事業所は三洋のテレビ事業の本拠地で、パナソニックによる買収後も米流通大手ウォルマート・ストアーズ向けの液晶テレビ販売を続けていた。しかし、この事業も今年度中に船井電機に譲渡されることが決まった。これで三洋が直接手掛ける事業は、電子基板を生産する三洋テクノソリューションズ鳥取(鳥取市)を残すのみとなる。

 もはや三洋の存在自体が風前の灯火だ。しかし、パナソニックが成長戦略の柱に位置づける自動車や住宅関連事業、企業間取引(BtoB)事業の随所に三洋から受け付いだ技術が生かされている。

 三洋が高い技術を保持した2次電池は、電気自動車(EV)やハイブリッド車向けの車載用リチウムイオン電池に活用されている。2次電池はパソコンなどに使う民生用がサムスン電子など韓国勢にシェアを逆転されており、車載用電池がパナソニックにとっての生命線になっている。

 業界最高の発電効率を誇る太陽電池は住宅用が国内トップシェアを争う。BtoBでは三洋が得意とした生産地からの保管や輸送を冷蔵状態で行う物流形式「コールドチェーン」が流通業界で高いシェアを占める。

 パナソニックが巨額を投じた三洋買収の効果は十分に出ているとは言い難い。それでも、30年度に売上高10兆円を目指すパナソニックにとって、かつての三洋の技術や事業の多くが重要な要素となっている。

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