2015.6.10 05:00
■個性・高付加価値を求める消費者
個性豊かなクラフトビールが、ここにきて存在感を増している。
全国に約220社が事業展開しているのに加え、大手4社も「クラフトビール」と銘打った缶ビールを発売するなど参入。とりわけ、キリンビールは東京・代官山に小規模醸造所を併設した飲食店を建設し、「スプリングバレーブルワリー(SVB)東京」として4月にオープンさせた。
SVB東京の客席数は200。営業時間は午前8時~午前0時(土日は午後11時)。当初の来店者数は1日700~900人台だったのが、5月に入ると連日1000人を超える。「1日600~700人を計画していたが、倍近くに達する日もある。平日の午前中からビールを注文する人も目立つ」(キリンビール)と話す。
クラフトビールとは、小規模醸造所で職人がこだわって造る個性的なビールを指す。大手4社が生産する主力ビールは、淡色で下面発酵させて醸造するピルスナーと呼ばれるタイプ。これに対し、クラフトビールは常温の上面発酵により醸造するエールをはじめ、ローストした麦芽を使う黒色に近いスタウトなど、製法や原料を変えた多様なビールだ。シェアではビール類市場の1%に満たない。だが、付加価値が高く、価格は少々高いものの20代の若者を中心に人気だ。
ビールをはじめ酒類事情に詳しい酒文化研究所の山田聡昭第一研究室長はクラフトビールについて、「この7年ほどで伸び始めた。特に飲食店では、地酒の純米吟醸、日本産ワインとともにいまブーム。いずれもマスマーケティングからはみ出している点で共通する」という。
クラフトビールは、米市場が先行する。1980年代には全米で100社以下だったのが、2014年には約3400社に。シェアも09年の4.4%から14年には11.0%に伸ばした。「販売価格はバドワイザーなどの2倍前後。それでも飲まれている」と山田氏。急速に伸びたのは、良質なクラフトビールを醸造できる中小メーカーが増えたためだ。
だが、別の理由もある。00年以降、世界ビール大手はM&A(企業の合併・買収)を繰り返し巨大化していく。リーマン・ショック直前にベルギーのインベブが「バドワイザー」の米アンハイザー・ブッシュ(AB)を約5兆円で買収して、ABインベブが誕生したのはその象徴。
ある世界的ビール大手はかつて、創業家が厳しく品質面に目を光らせていた。ところがこの会社は、買収されてしまい、創業家は会社から離れてしまう。
世界の生産委託先に対しても、かつては本国から技術者を派遣し改善を強要することが珍しくはなかった。が、いまはこれをやめている。「創業家が去り、酒造りのこだわりよりも、経営や生産の効率が優先されたため、この会社の品質は落ちた」(日本の大手ビール首脳)。つまり、米市場でのクラフト成長の裏側には「大手の品質劣化がある」(同)と指摘する。
日本の大手4社の品質管理は世界最高水準だ。むしろ、個性的なビールを求める消費者が増えたことが、日本のクラフト市場拡大につながっている。特定少数が好む高付加価値商品が勢いを増す転換点を、クラフトビール人気は示しているのかもしれない。
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【プロフィル】永井隆
ながい・たかし ジャーナリスト 明大卒。東京タイムズ記者を経て1992年からフリー。著書は「サントリー対キリン」「人事と出世の方程式」「国産エコ技術の突破力!」など多数。57歳。群馬県出身。