【高論卓説】住宅市場の変化と構造改革 大京が挑むストック経営戦略 千葉利宏

2015.7.29 05:00

 2006年に制定された「住生活基本法」に基づく住生活基本計画の見直し作業が今年4月から始まった。年内に改定案をまとめ、来年3月に閣議決定を予定している。

 高度経済成長期に大都市への人口集中による住宅不足を解消するために「住宅建設計画法」が制定されたのは、前回の東京五輪の2年後の1966年。それから同法が廃止されるまでの40年間で累計5500万戸(年平均137万戸)の住宅が建設され、世帯数を大きく上回る住宅ストックが形成された。代わって住生活基本法が制定されたのはストック重視の住宅政策へ転換を図るためだ。

 国土交通省では、今回の住生活基本計画の見直しで「既存住宅ストックの活用促進を軸とした新たな住宅政策」への転換を明確に打ち出したい考えだ。既存住宅の維持・管理、リフォームによる質向上、空き家を含むストックの活用促進、不良な住宅の除却の促進、そして良質な住宅の建て替えまでの「住宅ストックのマネージメントシステム」をどう確立するか。住宅産業が新築中心からストック重視のビジネスモデルへと構造改革できるかにかかっている。

 筆者が最も注目しているのがマンション専業デベロッパー最大手の大京だ。2006年までの29年間、新築供給業界トップとしてマンション市場を牽引(けんいん)してきたが、08年のリーマン・ショックを機に着々と構造改革を進めている。14年の事業主別供給戸数(不動産経済研究所調べ)は2018戸と現在でも全国8位に位置するが、すでにストックとフロー(新築)の売上高は逆転。過去の栄光に固執するのではなく、今後はストックとフローのバランス重視で事業を展開していく考えだ。

 マンション専業デベは、土地を仕入れてゼネコンが建設中に顧客を獲得して売り切る回転率が勝負。大量供給には適したビジネスモデルだった。しかし、リーマン・ショック後の08年12月にダイヤ建設、09年11月に穴吹工務店が倒産。11年1月に藤和不動産を吸収して三菱地所レジデンスが発足し、13年6月にコスモスイニシアも大和ハウス工業の子会社になるなど業界構造が激変した。

 大京も05年1月にオリックスと資本提携し、14年2月には連結子会社となったが、同時に13年4月に施工力のある穴吹工務店を買収するなど積極的なM&A戦略を展開。今年春にはグループ会社を再編して建設工事会社の大京穴吹建設、不動産流通会社の大京穴吹不動産を設立して、グループ内で維持・管理からストック活用、建て替え・新築までのストック・マネジメントシステムを構築した。

 1990年代後半に深刻な経営危機に陥りながら構造改革に取り組み、2014年度決算では過去最高の建設受注高を達成した長谷工コーポレーションの幹部も「大京さんはかつてのマンション専業デベではない。むしろ当社に事業構造が似てきた」と注目する。

 大京も1990年代後半には売上高が4500億円を超えていたが、2014年度は前期比5%減の3171億円。今後は累計供給実績45万戸、管理受託実績52万戸と業界トップのストックを生かし、大規模改修した中古マンションの販売強化などで再び成長軌道に乗せる考えだ。果たして大京は復活するか。住宅産業の構造改革の試金石でもある。

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【プロフィル】千葉利宏

 ちば・としひろ ジャーナリスト 東京理科大学建築学科卒。日本工業新聞(現フジサンケイビジネスアイ)で半導体・IT、金融、自動車、建設・住宅・不動産を担当し、2001年からフリー。日本不動産ジャーナリスト会議幹事。著書は「家を動かせ!」「中古住宅を宝の山に変える」(共著:日経BP社)、「実家のたたみ方」(翔泳社)ほか。56歳。北海道出身。

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