データ通信の悩み一挙に解消する日も遠くない? 驚異の新技術「Li-Fi」

2015.12.31 17:07

【エンタメよもやま話】

 さて、今週は久々となるネット関連のお話です。

 安倍晋三首相が9月「家計への負担が大きい」として総務省にスマートフォン(高機能携帯電話)に代表される携帯電話の料金引き下げを検討するよう指示し、国内の携帯電話大手3社が対応策のまとめ作業に入っています。

 総務省の家計調査によると、昨年の携帯電話の利用料金は1世帯あたり(単身も含む)月額平均で約7200円で、2002(平成14)年の1・7倍に増えていました。原因は、スマホでユーチューブといった動画を楽しんだり、音楽をストリーミングで楽しんだ際のデータ通信料の高額化です。

 実際、データ定額サービスの料金プランでスマホを使っていても、動画を見過ぎたために月間のデータ容量を月の途中で使い切ってしまい、通信速度を制限され、仕方なく追加料金を支払ってデータを購入し、通信速度制限を解除したという経験がある人も多いはずです。

 とはいえ、街中の公衆無線LAN「Wi-Fi(ワイファイ)」も、まだ使えない場所があったり、駅や大型ショッピングモールでさえもつながりにくかったり、途切れたりすることがあります。

 だがしかし。こうした悩みが一挙に解消する日もそう遠くなさそうです。今週の本コラムでは、それを実現する驚異の新技術についてご説明いたします。

 11月25日に米経済系ニュースサイト、インターナショナル・ビジネス・タイムズ(IBT)や英紙デーリー・メール(電子版)などが報じていますが、いま、欧米では、ワイ・ファイの100倍という通信速度を持つ新世代の無線技術「Li-Fi(ライファイ)」の実用化に向けた実験が加速しているのです。

 ライファイ(Li-Fi=Light Fidelity)とは、英スコットランドにあるエディンバラ大学でモバイル通信の研究に携わるハロルド・ハース教授が2011年に発明した技術です。

 簡単にいうと、ワイファイはデータを電波でやりとりしますが、ライファイは可視光、つまりLED(発光ダイオード)照明の光でデータをやりとりするのです。

 LEDの光は肉眼で見ると単にピカッと光っているだけですが、実は肉眼で判別できない超高速で点滅を繰り返しているのだそうです。

 その点滅をモールス信号のようなデジタル信号に変えてデータを通信・分析するというわけですが、その能力は驚異的で、今年2月16日付のIBTによると、英オックスフォード大の実験で、何と1秒間にワイファイの約100倍にあたる224ギガビットのデータ送信に成功しました。

 数字の羅列では何のこっちゃさっぱり分かりませんが、ものすごく簡単に言うと、映画18本がたった1秒でダウンロードできる能力だそうです。素晴らしいですね。

 そしてライファイには他にも素晴らしい利点がたくさんあります。そもそも、テレビやラジオのように電波帯域を使わないので、パケット容量がどうのといった問題が発生しません。

 そのうえ可視光を使っているので、第三者がデータをハッキングしたり盗んだりすることが不可能です。可視光は壁を通過できないため、隣の部屋の第3者が勝手に接続する心配も要りません。LED照明があればいいので、電波を送受信する電波塔や基地局の新設や増設も必要ありません。

 さらに、電波を使わないので電磁干渉が起こらず、飛行機のキャビンや病院、原子力発電所といった電磁波などが人や機械に悪影響を与える場所でも自由に使えます。唯一の欠点は、LED照明がない、もしくは点灯していない太陽がさんさんと輝く屋外では、ほぼ使用できないことと、今のところ、インフラ設備のコストがワイファイより高いことくらいですが、極めて単純な弱点なので、それもいずれは解決されるはずです。

 実際、ハース教授は2011年、世界的な学術・芸術分野の著名人らが毎年、カナダのバンクーバーに集まり、自身の成果などを披露する世界的な会議「TDAグローバル」で、自身が発明したばかりのライファイの将来性について「ここに(新たな)インフラが登場した。全世界には140億個のLED照明がある。将来はこれを使って、よりクリーンで輝かしい未来を実現できる」と力説しました。

 確かに、この技術が実用化されれば、いくら動画を見ても「追加でデータを買わないと通信速度を制限するぞ」という脅迫めいたメッセージに頭を悩ませることもありません。まさに新たなインターネット革命と呼べる技術ですね。

 既にハース教授と仲間たちがライファイ製品普及のための英企業「ピュアライファイ」を設立。同社はすでに、LED照明に小さなマイクロチップを付けてライファイのアクセスポイントに変え、パソコン側に専用の横長のモデムを付けて使うというライファイ製品「ライ-フレーム」を発売。

 さらに、11月末からは、エストニアの企業ベルメニが首都タリンでこの技術を使った大々的な実験が始まっています。ベルメニのディーパック・ソランキ最高経営責任者(CEO)は11月23日付IBTに「われわれは、可視光通信(VLC)の技術の実用化に向け、さまざまな分野の業界と試験プロジェクトを展開中です」と明言。

 さらに「われわれは、産業環境(向上)のため、光を使ったデータ通信を行う最先端の技術革新に挑んでおり、オフィス空間でライファイ技術を用いたネット環境を作る試験プロジェクトを民間(企業)のクライアントと展開中です」と述べ、こうした試験プロジェクトがうまくいけば「3年~4年以内に実用化が可能である」と断言しました。

 ところで、いま、世界では、パソコンや携帯電話、スマホだけでなく、乗り物や衣服、家電、公共料金のメーターなど、身の回りにあるさまざまなモノをワイファイなどでインターネットに直接つなげ、モノ同士やモノと人とが相互に通信できるようにする「IoT(Internet of Things=モノのインターネット)」という新技術を本格的に普及させようという動きが活発化しています。

 経済産業省と総務省が10月23日、産学官協働で「IoT推進コンソーシアム」を立ち上げ、新時代に対応した技術やサービスの研究を開始しました。

 ちなみに、米大手コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニー傘下の「マッキンゼー・グローバル研究所」は今年7月22日、IoTの世界における潜在的価値は、2025年までに3兆9000億ドル~11兆1000億ドル(約481兆1800億円~約1369兆5200億円)というとてつもない数字となり、世界経済の11%を占めるようになるという衝撃のデータを明らかにしました。

 そして、このIoTの潜在的価値の可能性を最大限に引き出し、本物の価値にするためには、技術提供の低コスト化や強力なデータ分析力、たゆまざる進化が必要であると指摘しています。

 しかし、そんなとてつもなく将来有望なIoTの技術にも大きな弱点があります。もしも第3者にハッキングされ、ウイルスに感染したり、重要なデータを盗まれたりすると、あらゆるものがネットでつながって一体化しているだけに、その悪影響はこれまでと比較になりません。

 しかし前述したように、第3者からのハッキングが不可能といった多くの利点を持つライファイの技術とIoTの技術を組み合わせれば、かつてない通信革命が起きるのは間違いありません。

 「昔はスマホでユーチューブをちょっと長い時間見ていたら、通信制限かかってね~」と若い世代に話すと「アホちゃ~う。意味分からへんわ」とバカにされる時代がやってくるのはもうすぐですよ。(岡田敏一)

 【プロフィル】岡田敏一(おかだ・としかず) 1988年入社。社会部、経済部、京都総局、ロサンゼルス支局長、東京文化部などを経て現在、編集企画室SANKEI EXPRESS(サンケイエクスプレス)担当。ロック音楽とハリウッド映画の専門家。京都市在住。

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