【詳報】ポケモン社長インタビュー 20周年…これから目指していくものは?

2016.6.25 17:04

 人気ゲーム「ポケットモンスター」のブランド事業を展開する株式会社ポケモンの石原恒和社長が、ポケモン20周年を機に産経新聞のインタビューに応じた。開発当初からポケモンにかかわった石原社長は「ゲームと現実世界を融合し、双方を豊かにすることが今後も変わらない理想」と強調。新機軸のスマートフォン向けでも、遊びながら楽しい人間関係を築けるようなゲームを目指すと語った。主な一問一答は次の通り。(聞き手 牛島要平)

 すべてが画期的だった

 --ポケモンは平成8年2月、任天堂の携帯型ゲーム機「ゲームボーイ」向けに第1弾のソフトが発売された。シリーズは計25タイトルを数え、今年2月下旬の時点で世界累計販売本数が2億本を突破した

 「主人公が自然を舞台に架空の生き物(ポケモン)を持ち歩き、強い敵に挑むというロールプレーイングゲームは最初からの構想だった。そこから、強いポケモンを捕まえるだけでなく、好きなポケモンを育ててレベルを上げるなど、幅広い遊び方を可能にしていこうと工夫を重ねた」

 --ゲームを通じてプレーヤー同士が交流できる点も画期的だった

 「ゲームで捕まえたポケモンを(通信機能で)学校の友人と交換する遊びは、子供たちにとって初めての経験だった。ゲームの世界と現実に起きていることがともにリアルでおもしろく、思い出に残る体験になったようだ。『転校していったあいつが最後に置いていったポケモンがこれだった』とかね」

 --今年4月に配信を始めた初の本格的スマホ向けゲーム「ポケモンコマスター」は、チェスのようにポケモンを動かして相手陣地を攻略する。シンプルだが勝ち抜くのは難しい

 「ポケモン同士がそれぞれの(攻撃パターンの)ルーレットを回して対戦する遊びなので運に左右されるが、確率を把握した上で一番いい手を指せるプレーヤーが強い。運の要素をできるだけ自分の中で細かく計算して遊びを楽しめる」

 --ポケモンとして初めて人工知能(AI)を取り入れた。AIを使った将棋ゲームで知られる「HEROZ(ヒーローズ)」(東京)との共同開発だ

 「ゲームが複雑すぎるという指摘もあり、AIに助けてもらったらいいと考えた。ヒーローズも『ポケモンは駒の種類でいえばとんでもない数になるので一筋縄でいかないが、やってみたい』と賛同してくれた。難しいゲームだが、今までより高度なところまで到達できるようになる」

 スマホ向けゲームでの展開

 --スマホ向けゲームの将来をどう考える

 「最近の日本のスマホ向けゲームはどんどん画一化していて、プレーヤーもそのことに安心して、『楽だからいいや』ということになってきている。特に日本に顕著な現象で、収益の9割ほどを国内で稼ぐゲームが多く、全世界的に成功している事例は少ない」

 --国内でのスマホ向けゲームの台頭がゲーム業界に与える影響は

 「スマホのおかげでゲーム人口が拡大したが、ゲーム専用機でじっくり遊ぶ人がどんどん減っている。『そんなことをしているくらいなら、スマホでぱぱっと空いた時間でやって、残りは別のことに回したい』という生活リズム、思考の流れが加速している」

 --海外でもそうか

 「米国でもそういう人が増えているが、日本ほど急激でないし、深くゲームを遊びたいという人が多い気がする。日本で売れたから海外でも売れるかというと難しい。日本のスマホ向けゲームが(国内での発展にとどまる)ガラパゴス化しないようにしたい」

 --株式会社ポケモンとしてはどう対応していく

 「私たちとしては米国や欧州などのさまざまな地域で、ポケモンがより広がって遊ばれることを目指している。日本的なゲームの売られ方やルールにとらわれすぎ、海外での展開力を失ってしまうことを危惧(きぐ)している」

 --衛星利用測位システム(GPS)などの位置情報を利用したスマホ向けゲーム「ポケモンGO(ゴー)」を年内に世界で配信する狙いは

 「位置情報を活用して実際に世界を歩くわけだから、ゲームと現実の境目が取っ払われ、ポケモンのビジョンに近づく。この遊びが生み出す爆発力はまだ未知数だが、これまでにないゲームが生まれつつあるという予感はしている。どのくらい世界中で広まっていくか楽しみ」

 --米グーグルから独立した「ナイアンティック」と共同開発し、同社が世界で成功させたスマホ向けゲーム「イングレス」の技術を応用している

 「ナイアンティックはグーグルマップをつくった技術者が中核。データベースを構築していく彼らの技術の高さに期待している」

 VRの可能性

 --仮想現実(VR)の技術を取り入れたゲームも話題だ

 「VRは没入感が深く、あれほど強いインパクトを与えるものはない。風や振動が加われば、断崖(だんがい)絶壁に立たされる感じや、ジェットコースターが外れて飛んでしまうような怖さも味わえる。テーマパークのアトラクションにどんどん組み入れられるだろうし、短時間なら家の中で楽しめるエンターテインメントとして成立する可能性がある」

 --ポケモンをVRで楽しめる日も来るのか

 「私たちがやろうとしているのは正反対。ゲームが現実世界のおもしろさを拡張してくれるようなしかけをつくりたい。ゲームに夢中な子供を外に連れ出すのは難しいが、ポケモンGOは『お父さん、早く外に行こう。公園に(人気のポケモンの)ピカチュウがたくさんいるよ』という展開になる」

 ポケモンが目指すもの

 --任天堂が次世代機「NX」を来年3月に発売する

 「ポケモンは任天堂のゲーム機で育ったコンテンツなので、NXには大きな関心を持っている。ポケモンはゲーム機を持ち歩き、通信機能で友人と一緒に遊ぶゲーム。現在、最も持ち歩きに適したデバイスはスマホなので、ゲーム機とスマホを上手に統合して遊びが広がっていく状況が理想的な展開だ」

 --昨年7月に死去した任天堂の岩田聡前社長との親交が深かった

 「岩田さんと私で、何が自分たちにとって一番の強みかを考え抜いてきた成果がポケモンGO。岩田さんは、スマホで拡大したゲーム人口に専用機をどう位置づければよいのかをずっと考えていた。遺志を継いだ現在の任天堂もスマホとの関係を意識して新しいハードをつくっていると思う」

 --ゲーム専用機の新しい可能性は

 「スマホが実現したゲーム人口の拡大と遊びの質の変化に対して、専用機が持っている力や良さも強く意識されてくると思う。その辺が一番いい具合に混ざり合ったときに、ゲーム産業は最大化するはずだ。単純にスマホ向け市場がふくらんで、専用機が衰退するという流れにはならない」

 --最後に、ポケモンでこれから目指していくものは

 「繰り返しになるが、ポケモンの役割は、ゲームの世界の遊びと、現実世界のおもしろさの融合。そのためのアイデアを一個一個実現させてきた。現実とゲームのどちらかに偏って引きこもりが起きたり、想像力をなくすのではなく、両方に熱量が上がり、ポテンシャルが上がるような世界を実現させたい」

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