最初は不安だった「ポケモンGO」 今後のバランス調整は?開発のキーマンに聞く

2016.9.11 17:05

 世界中で爆発的な人気を呼んだスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」。7月の配信以降、ダウンロード数は5億回を超え、早くも“伝説”になりつつある。このゲームの何が人々を魅了するのか-。開発にかかわった株式会社「ポケモン」(東京)の宇都宮崇人専務執行役員と米ナイアンティックの川島優志アジア統括本部長が産経新聞のインタビューに答えた。

 --開発側からみたポケモンGOの特色は

 宇都宮氏「ポケモンGOで遊ぶには、外に出て歩き回らなければなりません。それが最大の特色でしょう。ナイアンティック最高経営責任者(CEO)のジョン・ハンケ氏が、何度も言っていました。『人は外に出て、歩くことで幸せになれる』と。この言葉に、私たちは大いに賛同しました」

 川島氏「子供たちの多くが運動不足といわれていますが、それをゲームが助長しているといわれるのはとても残念。むしろゲームを、外に出るきっかけにしたいと考えていました。私たちのもとには、子供たちがポケモンGOで外に出るようになったという手紙が、各国から寄せられています。私たちが開発したゲームで、たくさんの人が健康になってくれれば、こんなに嬉しいことはありません」

 --開発の経緯と苦労した点は

 宇都宮氏「きっかけは2014年4月、米グーグルのエンジニアだった野村達雄さんが、エープリルフールの企画として地図アプリ『グーグルマップ』上にポケモンを出現させ、それを捕まえるゲームを配信したことです。これが話題となり、(株式会社ポケモンとの)共同事業が本格化しましたが、グーグル社内でポケモンGOの開発にあたっていた部門が独立し、新会社ナイアンティックを設立する方向になったことで、私たちは大きな岐路に立たされました。優秀な人材が移るとはいえ、ナイアンティックはベンチャー企業。失敗した場合はリスクを背負いきれない恐れもあります。しかし(ポケモン社長の)石原(恒和)らが下した判断は、ほぼ即決で『GO』でした。(ポケモンに出資する)任天堂の岩田聡社長(平成27年急逝)が背中を押してくれたことも大きかったですね。ある意味、私たちは覚悟を試されたんだろうと思います」

 川島氏「私たちは小さなチームでしたから、両社(ポケモンと任天堂)にとっては大きな賭だったと思います。両社が賭けてくれなければ、現在のナイアンティックはなかったし、ポケモンGOも世に出なかったでしょう。ゲームに対する理解と愛情が、私たちをより強く結びつけ、開発と配信にたどり着くことができたのです」

 --配信してすぐに空前のヒットとなったが、予想していたのか

 宇都宮氏「とんでもない、むしろ配信前は、受け入れてもらえるかどうか不安でしたよ」

 川島氏「私も不安でした。配信前、ゲーム業界の関係者を対象にフィールドテストを行ったのですが、あまり評判が良くなくて…(笑)」

 宇都宮氏「ビジネスとして成功しないとも言われましたからね(笑)。しかし、私の不安を和らげてくれたのは、私の6歳の娘の一言だったんです。娘と一緒にテストをしてみたら、『ポケモンって、本当にいたんだね』と言ってくれて…。サンタクロースを信じている子供たちに夢があるように、ポケモンが存在すると思う子供たちが増えることは、とても素晴らしいことだと思います。そういう夢のある世界こそ、私たちが目指しているもの。たとえビジネスとして成功しなくても、ポケモンGOを世に出すことに意義があると確信しました」

 川島氏「配信開始1カ月のダウンロード数などがギネス世界記録に認定されて話題になりましたが、これも予想をはるかに上回るスピードでした。ダウンロード『1億』は、意識していた数字ですが、ハードルの高い目標だと思っていたのです。それが、こんなに早く達成されてしまった。いかにポケモンが世界中で愛されてきたか、ということでしょう」

 --他にも意外なことがあった?

 宇都宮氏「50代~70代の、これまでゲームに関心のなかったような方々まで利用していただいていることは嬉しい想定外でしたね。平成8年に任天堂の携帯ゲーム機用ソフトとしてポケモンが誕生してから、今年で20年になります。ポケモン世代といわれる当時の小中学生も30代となり、子供と一緒に、再びポケモンで遊んでくれるだろうというのが、私たちが当初考えていたことでした。2世代だけでなく3世代で利用してもらえるとは…」

 川島氏「『お父さんはこのゲームで遊んだんだよ』と言ってもらえるような、息の長いゲームをつくりたいと思っていました。ポケモンGOのヒットで、岩田さんの世界に一歩近づいたような気がします」

 --困った想定外もあったのでは

 宇都宮氏「いわゆる歩きスマホなどによるトラブル報道もありましたので、観光施設などから、敷地内にポケモンが出現しないようにしてほしいという要請も複数ありました。ただ、趣旨を説明すると理解してくれて、要請を取り下げたところもあります」

 川島氏「由緒ある場所や記念碑などには、一人でも多くの方に訪れてほしいものです。そういう場所にふだんは行かないような人も、ポケモンGOでなら行くかもしれない。そういう方々が、遊びの合間に観光もしてくれて、その地域で大切にされてきた風土や歴史に気づいたなら、とても素晴らしいこと。私たちのスタッフは今、全国各地を飛び回って説明に努めていますが、私たちが目指しているものを、多くの人に知ってもらいたいと思います」

 --今後の展望は

 宇都宮氏「ゲームをやりなれている人に長くつきあっていただくには、内容に奥行きをもたせなければなりません。その一方、奥行きを持たせすぎると、難しくなり初心者の方々が離れてしまう。間口は広く奥行きは深く-がゲームの鉄則ですが、バランスをどう取っていくかは、悩ましいところです」

 川島氏「そうですね。ポケモンGOというゲームを通じて、住んでいる町から一歩踏み出してより遠くに、多くの場所を訪れてほしい。ポケモンを探すだけでなく、知らない町の知らない魅力も捕まえてほしい。顔を上げて町の様子や、周囲で遊んでいる方々の笑顔をみてほしい。そして一緒に語り合ってほしいと思います」

 (聞き手 川瀬弘至、高橋寛次)

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