【開発物語】金太郎ホーム 賃貸マンション「ヒルズシリーズ」(2-2)

2017.1.30 05:00

 ≪TEAM≫

 ■街づくりや若手社員育成にも注力

 金太郎ホームの躍進の原動力は「オーナー、地元のため」に働くことだ。

 佐々木数修都社長の経営イズムは単純明快。「オーナーさんのビジネスを成功させることができて初めて、私たちが幸せになれる」。社員には、サービスを売っている会社であることを意識させた。あいさつや時間管理の大切さなど、基本を教え込んだ。「できないものをどうやってできるようにするかが大切。負荷がかかっていることを克服して初めて、自分の給料になる」と励ましてきた。

 若手社員の育成にも余念がない。現在進行中の「家具付き部屋プロジェクト」のビジネスモデルのたたき台をつくる責任者に、入社3年目の岡沢藍さんを抜擢(ばってき)した。岡沢さんは「『思ったことをすぐに行動し、形にする』というのが社長の考え。社員たちにも浸透している」と話す。

 家具付き部屋プロジェクトのアイデアは、週に1度開かれる賃貸事業のミーティングで生まれた。約4000室ある同社管理物件の入居率は約96%と高いものの、オーナーのためには空室の4%を少しでも減らしたい。佐々木社長は「この部屋は長いこと空いたままだ。どうしたらよいのか」などと、社員に課題を与える。社員は、周辺の家賃相場や競合物件の状況を分析して対策を検討するが、家賃を下げるという対処法ばかりでは、オーナーの利益を損ねてしまう。ある日、1人の社員が「部屋に家具を置けば、お客さまが内見したときイメージを持ってもらえるのでは」と提案。佐々木社長の“鶴の一声”で事業化が決まった。

 まずは、インターネットの自社サイトで、物件の外観ではなくデザイン性に優れた家具を室内に展示した写真を掲載した。部屋の契約者には、展示した家具を無料で提供することもある。空室で借り手がつかないことより、家具を無料提供してでも入居してもらった方がオーナーの利益になるからで、利用客からの反応は上々だ。いずれは家具輸入会社の設立も考えている。

 入居者のためになるなら、と物件周辺の街づくりにも力を注ぐ。2013年10月には、地元・千葉市に1000万円を寄付し、老朽化した公園遊具の交換に役立ててもらった。プロ野球・千葉ロッテマリーンズで使用されていたリリーフカーを譲り受け、入居者が無料で利用できるサービスも行っている。千葉県初のプロバスケットボールチーム「千葉ジェッツ」への支援も行っている。

 自社が管理する物件の入居者とは月に1度、交流会を実施して意見交換する。佐々木社長は「地域が元気になって人が集まる街になれば、当社としてもビジネスになる機会は増える」とさらりと話す。

 佐々木社長は、社会問題になっている耕作放棄地の解決にも一役買いたいと考える。農業法人をつくって荒れ地を買い取り、取引先の従業員らの再就職先にする構想だ。「地元にお世話になったお礼を何らかの形で還元したい」と話す。

 会社の評判を聞きつけ、ノウハウを学びたいという同業者には惜しみなく提供する。地元の中学校に勤める恩師から頼まれ、中学生の職場体験も実施してきた。佐々木社長は彼らから届いた感謝の手紙を大切に保管している。民間企業で、ここまで真剣に街づくりを考えている企業は少ないだろう。

 少子高齢化の影響で住宅市場が先細りするとみられる中、業界の次代を担う若者にどのような人物像を求めるのか。佐々木社長は「大変な状況だからこそ業界を支えてやるんだ、という気持ちのある人に入ってもらいたい」と期待している。

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 ≪MARKET≫

 ■賃貸住宅 年35万戸の新規供給必要も

 金太郎ホームが賃貸マンションへの投資ビジネスに注力するのは、高い利回りを提案できるからだ。

 国土交通省の住宅着工統計によると、2015年に着工した賃貸住宅は前年比4.6%増の約37万8000戸。住宅市場において、賃貸住宅戸数は約4割の規模を占める。

 相続税対策のための賃貸住宅が増えていることや、消費税増税後に持ち家の需要が落ち込んだため、ハウスメーカーが賃貸住宅に注力していることも、賃貸住宅の着工件数が増加する要因となった。

 今後は、国内人口が減少傾向にあり、世帯数は独身勤労者や1人暮らしの高齢者が増え続ける。世帯数は20年まで増加し続け、その後はほぼ横ばいで推移するものの、年間35万戸程度の賃貸住宅の新規供給が必要となりそうだ。

 ここにきて、相続税対策で郊外に賃貸住宅を建築したケースで、空室が問題となっている。しかし、駅近で鉄筋コンクリート造りであるなど物件の条件が良ければ、空室率は低く抑えられ、資産価値は高くなる。賃貸マンションへの投資における利回りは高くなるというわけだ。

 ヒルズシリーズの販売は、千葉・幕張にある本社から車で30分以内の商圏に限られているが、佐々木社長は「オーナーにとって、最も収益性が高いエリアだ」と分析する。

 ≪FROM WRITER≫

 取材を通じて感じたのは、金太郎ホームが地元を中心とした「堅実な企業」であることだ。

 同社の年商は、賃貸マンションの建設会社として関東で4位、全国では8位だ。リーマン・ショックや東日本大震災に伴う不況にもかかわらず、増収増益を続けている。

 創業以来、地元に信頼され、建設業界にまつわるマイナスイメージの払拭に努めたいという佐々木社長の理念があるからだろう。

 佐々木社長は社会貢献に力を入れてきた。地元千葉市や中学校、地域の祭りへの多額の寄付だけでなく、地域住民との交流を目的に餅つき大会を主催している。保育園児との交流も行っている。

 中学生の職場体験学習の受け入れは、佐々木社長の恩師が地元中学校の校長に就任したことがきっかけだった。「恩義ある人から頼まれたら断れない」という佐々木社長の人柄を示すエピソードといえる。地道な活動を続けているがゆえに、周囲の人々が集まっていると思う。

 そこに生活する人のことを考えながら仕事をつくり、社会貢献をしている金太郎ホーム。これから社会に出ようとする若者には、働くことの意義の一つとして肝に銘じてほしい。(鈴木正行)

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 ≪KEY WORD≫

 ■「ヒルズシリーズ」

 金太郎ホームが提供する重量鉄骨造りで4~10階建ての賃貸マンション。土地と建物をセットで紹介しており、土地を持っていない人が投資家になれる。土地は、賃貸のマーケットとして成立する駅から徒歩15分圏内のみで、佐々木数修都社長が自ら厳選している。

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