【ビジネスのつぼ】JT加熱式たばこで「10年戦争」幕開け 先行「iQOS」とまったく異なるコンセプトとは

2017.7.10 06:06

 ■加熱式たばこファン拡大へ クリーンさと風味両立

 燃焼に伴う煙やタールがゼロで、においも少ないとして愛煙家の注目を集めている加熱式たばこ。米フィリップ・モリスインターナショナルの「iQOS(アイコス)」が国内市場を席巻する中、日本たばこ産業(JT)は「ploom TECH(プルームテック)」で追い上げている。クリーンさと風味を両立させ、紙巻きたばこからの乗り換えを競う「10年戦争」(JTの小泉光臣社長)の幕開けだ。

 においと利便性で差別化

 「他社製品とコンセプトがまったく異なる。いわば『水出しコーヒー』のイメージです」。たばこ事業本部のマーケティング担当、岩崎譲二さんはプルームテックの技術に胸を張る。

 アイコスや英ブリティッシュ・アメリカン・タバコの「glo(グロー)」は、いずれも専用たばこを筒状のホルダーに差し込み、燃やす代わりに電気で加熱して、ニコチンを含んだ蒸気を吸う仕組みを採用した。

 一方、プルームテックは電気を使う点こそ同じだが、加熱するのは専用リキッド。水や食品添加物に使うグリコールなどを混合している。その蒸気が、粉砕たばこ葉の詰まったカプセルを通り、ニコチンを揮発させるという「間接加熱」の発想だ。

 開発陣がヒントにしたのは、植物の芳香成分が凝縮されたエッセンシャルオイル(精油)を抽出する際に用いる「水蒸気蒸留」の手法だ。カプセルを通る蒸気の温度は約30度と低く、においを減らす上で直接加熱より有利に働く。

 検査の結果、周囲に漂う臭気の濃度は紙巻きたばこの0.2%以下で、衣類に付着した臭気の強さは「やっと感知できるにおい」を下回るという。

 もう一つ、競合2製品と大きく異なるのは「一服ずつ吸うことが可能」な点だ。

 プルームテックの充電池を収めた本体部分とリキッドカートリッジの間には空気穴があり、使用者が吸い込む気流を感知したときだけ通電、加熱する仕組み。そのため、装着したたばこカプセルを一度に吸いきる必要はなく、一服したらそのまま胸ポケットに差して持ち歩き、また吸うことができる。

 使い勝手の面でも、従来のたばことは次元がまったく異なる製品に仕上がった。

 満を持して東京進出

 プルームテックは昨年3月、福岡市限定で発売したが、JTの次世代たばこは、これが初めてではない。

 2010年発売の無煙たばこ「ZERO STYLE STIX(ゼロスタイルスティックス」は、粉末たばこ葉のカートリッジを吸って味や香りを楽しむ仕組み。加熱せず簡便で、一服ずつ吸える点はプルームテックと似ている。吸いごたえが極めて軽いが、人気は根強いという。

 13年発売の初代「プルーム」は、たばこと香料の詰まったカプセルを電気加熱する構造。蒸気の熱さやカプセルの割高感が不評で、ひっそり姿を消した。

 こうした経験から、プルームテックの仕様は「スリムさとシンプルさを追求」(岩崎さん)したという。細身のペンのような形状で、スイッチ操作はゼロ。価格も約50服できるたばこカプセルが5個で460円(リキッド1本付き)と、本体(4000円)の初期投資を除けば従来の紙巻きたばこと変わらない。

 ただ、競合2社と比べて販路拡大が遅れているのは事実だ。

 昨年から全国展開したアイコスは、すでに約300万台売り上げている。仙台市でテスト販売していたグローも今月、宮城、東京、大阪の3都府県約1万3000店舗へ拡大し、年内には全国に広げる計画という。

 プルームテックも満を持して東京へ進出。注文殺到で中止へ追い込まれたネット通販を6月末に再開し、実店舗での販売も銀座と新宿の旗艦店など都心約100カ所で始まった。

 しかし、全国拡大の目標は来年上期と最も遅い。カプセル生産には紙巻きの機械を転用できないためで、「現在の最優先課題は安定供給できる態勢作り」(岩崎さん)だ。

 それでも、JTの小泉社長は「妥協を許さずに開発した結果だ。たばこベイパー(加熱式たばこ)戦争は、今年や来年がゴールではない」と、追い上げへの自信を語る。

 東京進出に合わせ、ペン立て形の卓上ホルダーや持ち運び用のソフトケースなど周辺アイテムを発売したほか、たばこカプセルの新フレーバーの開発も進めるなど、ファン拡大への手を着々と打っている。

 喫煙人口が年々減る中、加熱式が国内たばこ市場に占める割合は急拡大している。昨年末の約5%から今年末には15%まで上昇する見込みで、20年には30%に達するとの見方もある。東京五輪・パラリンピックに向けた受動喫煙対策の議論が高まる中、加熱式たばこの顧客獲得合戦がさらに過熱するのは間違いない。(山沢義徳)

                   ◇

【企業NOW】無償の分煙コンサル活動を展開

 「思えば、自分ん家の前では、たばこを捨てたことがない。」

 「たばこを吸う私も、人の煙はごめんだ。」

 こんなキャッチコピーを、雑誌広告や駅のポスターで目にした人は多いだろう。喫煙マナー向上を呼びかけるJTの取り組みは1970年代、前身の日本専売公社時代まで遡(さかのぼ)る。2004年からは、喫煙スペースの設置方法などを助言する無償の「分煙コンサルティング活動」を展開している。

 相談に応じる分煙コンサルタントは全国15支社に約200人いる。屋内・屋外や広さなどに応じ、例えば「喫煙スペースの扉は開き戸より引き戸が適している」「天井や壁に沿って広がる煙を遮る上で、垂壁や袖壁の設置も効果的」といったノウハウを提供している。

 分煙をめぐり厚生労働省が02年に策定した効果判定基準では、排煙装置の設置などで「非喫煙スペースから喫煙スペースへの風速を秒速20センチ以上確保する」ことや、「喫煙スペース内の浮遊粉じん濃度を1立方メートル当たり0.15ミリグラム以下に抑える」ことを示している。屋内と区別して屋外での喫煙を許容している欧米諸国などと異なり、屋外での禁煙が先行した日本ならではの基準といえる。

 JTのコンサル活動は、これまでオフィスや飲食店、商業施設など約2万件で実施した。分煙ニーズの高まりに伴って相談が年々増えているといい、具体的な事例と手法のポイントを同社ホームページに写真付きで公開している。

                   ◇

 ■日本たばこ産業

【設立】1985年4月

【本社】東京都港区虎ノ門2-2-1

【資本金】1000億円

【売上高】2兆1432億円(連結、2016年12月期)

【従業員数】4万4667人(連結、16年12月31日現在)

【事業内容】たばこ、医薬品、加工食品などの製造・販売

閉じる