東芝半導体、WD徹底抗戦 売却実現なお不透明 経産省は影響力の低下露呈

2017.9.22 06:12

 東芝が半導体子会社「東芝メモリ」の売却先を「日米韓連合」に決めた。だが、爪はじきにされた協業相手の米ウエスタン・デジタル(WD)が徹底抗戦を続けるのは必至で、売却実現はなお不透明だ。経営陣の求心力は失墜し、人材流出も加速している。WD側の後ろ盾になっていた経済産業省は、シャープの身売り劇に続き影響力の低下を露呈した。

 因縁のアップル

 「きょう決まるか分かりません」。東芝の成毛康雄副社長は20日早朝、言葉少なに迎えの車に乗り込んだ。東芝メモリ社長を兼務する反WDの急先鋒。この時すでに綱川智社長も含め、日米韓連合への売却で腹を決め経産省に報告を済ませていた。

 反WDの流れを決めたのは米アップルだった。東芝メモリの最大顧客として各陣営に名を連ねたが、WDが経営権を握れば取引を打ち切ると示唆した。過去にWDがアップルに対する供給を絞って価格をつり上げた経緯があり、両社は因縁の間柄。東芝関係者は「日米韓連合に加わった米IT4社はWD嫌い」と明かす。

 WDが影響力を持つ「日米連合」は、土壇場で政府系ファンドの産業革新機構の出資増額を提案したが、綱川氏らの判断は覆らなかった。同陣営の関係者は「ここまでリスクを容認した経産省を袖にするとは…」と驚きを隠さない。経産省はWDによる訴訟で売却が白紙になった場合の公的資金の毀損(きそん)を懸念し日米連合を推していた。

 シャープ支援でも台湾の鴻海精密工業に競り負けた経産省。大型案件での失態続きに同省幹部は「面目丸つぶれだ」と苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。財界関係者は「指導力が落ちている」と冷ややかだ。

 1875年に創業した東芝は冷蔵庫や洗濯機、掃除機など国産第1号の家電製品を次々と世に出し、高度経済成長や女性の社会進出を支えた。

 だが白物家電事業は中国企業の傘下に入り、医療機器事業も手放した。東芝メモリがグループを離れたら、2019年度の連結売上高は4兆2000億円とピークだった07年度の5割強に縮む見込みで、総合電機で万年3位と呼ばれた三菱電機を下回る。

 社員の士気も下がっている。「転職の意向は、みんな多かれ少なかれ持っている」。三重県四日市市の半導体工場の男性従業員はつぶやいた。目の前の仕事を黙々とこなすが、他社に引き抜かれた同僚の話を耳にすると将来への不安が募る。

 今年6月末の連結従業員は約15万2000人。3月末から1000人以上減った。新卒採用を見送った影響もあるが、衰退する一方の会社に見切りを付けた技術者らの退職が急増している可能性がある。

 「これで大丈夫か」

 東芝は今回の売却で財務基盤を立て直す方針だが、思惑通り進む保証はない。WDが売却中止を求めて国際仲裁裁判所に起こした訴訟を取り下げる可能性はほぼない。仲裁裁の議論は2~3年に及ぶケースが多い。

 革新機構と日本政策投資銀行が合流するのは訴訟解決後。まずは東芝と半導体関連企業のHOYAで過半の株式を持つが、日米韓連合の完成には時間がかかる。革新機構の幹部ですら「これで大丈夫か」と漏らす。

 約7カ月にわたり迷走した売却交渉。東芝はこのまま手続きを進め、再建の道筋をつけたいところだが、市場の信認を回復するには不確実な要素があまりに多い。

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