【経済インサイド】東電の福島第2原発廃炉方針、このタイミングで表明したのは知事選が理由?

2018.7.13 06:30

 東京電力ホールディングス(HD)の小早川智明社長が6月、福島第2原子力発電所について廃炉の方向で具体的検討を進めると表明した。東日本大震災と福島第1原発事故から7年余り。東電が判断を保留してきた福島第2の扱いについて初めて廃炉を明言した。東電が正式に決めれば、既に廃炉作業が進む福島第1と合わせて福島県内の10基全てが廃炉となるが、作業員の確保や廃炉で発生する大量の放射性廃棄物の処分など課題は山積だ。

 「(方針が)あいまいでは復興の足かせになる」

 6月14日午前。福島県庁を訪れた小早川氏は内堀雅雄知事にこう語り、福島第2の全4基を廃炉の方向で具体的に検討を進めると伝えた。福島県などの地元自治体からはかねて廃炉を要請されていた。

 「やっとその日が来たかという思いと同時に、怒りがわいてきた。決断の遅さが原因で、どれだけ福島の復興が遅れたか」

 自民党の小泉進次郎筆頭副幹事長は6月15日、国会内で記者団にこう述べ、東電の表明が遅すぎたと批判した。

 もともと、福島県で未曽有の原発事故を起こした東電が、同県内で原発を再稼働させることは地元感情からみても困難とみられていた。それだけに「遅きに失した」のは否めないが、このタイミングで福島第2の廃炉検討の方針を示したのはなぜか。

 福島県庁を訪れた翌日、世耕弘成経済産業相に報告を終えた小早川氏は記者団にこの点を問われ、「一番大きかったのは(内堀)知事から改めて(廃炉の)要請を受けたこと。そして、私も(昨年6月の)社長就任から間もなく1年を迎えるが、これ以上あいまいな状態にしておくこと自体が地元の復興の足かせになると考えた」と説明した。

 一方、今年10月に福島県知事選を控えたタイミングだったことを勘ぐる向きは多い。内堀氏は平成26年の知事選で、県内の全原発の廃炉を公約に掲げて初当選した。福島第2について、現状では廃炉の具体スケジュールは未定だが、これまで福島第2の扱いを明言してこなかった東電から廃炉検討の言質を引き出したのは、内堀氏にとって一定の成果となる。実際、内堀氏は小早川氏の廃炉検討方針の表明から1週間後の21日に、再選出馬の意向を表明した。

 東電にとっては、福島第1の汚染水の浄化処理後に残る放射性物質トリチウムを含む水(処理水)の扱いが懸案だ。5月30日の原子力規制委員会の臨時会議ではこの問題が議題に取り上げられ、小早川氏は「国が責任を持って判断するとしており、信頼して結論を待ちたい」と繰り返した。

 これに対し、更田(ふけた)豊志委員長らは小早川氏の姿勢について「国の責任をただ待っているのではリーダーシップとはいえない」「福島第1の廃炉をやり抜くという中で、トップのあり方として大きな疑問を持っている」と厳しく批判。小早川氏が返答に詰まり沈黙する場面が何度もみられた。

 処理水は増え続けているが、タンクを増設する余地はこの先限られ、東電にとっては待ったなしの懸案。福島県が繰り返し求めてきた福島第2の廃炉を検討すると打ち出すことで、処理水問題の解決に向けた地元の協力を取り付けたい、という思惑が垣間見える。

 福島第2の廃炉の決定時期について、小早川氏は今後の検討になるとした。ただ、実際の廃炉に向けては課題が山積といえる。

 1~3号機で炉心溶融事故が起きた福島第1は全6基の廃炉が既に決定しており、福島第2の4基が加わると合計10基と、単独の電力会社としては前例のない規模となる。同時並行の廃炉作業が果たして順調に進むのか、処理水問題に加えて最大の難関とされる溶融核燃料(デブリ)の取り出しも待ち構える福島第1の廃炉作業に支障が生じないのか、懸念が残る。

 小早川氏自身も「福島第1もあり、人的資源を含めた全体の作業ステップをどのように組み立てるかが一番大きな課題だ」と語る。福島第1では1日約5000人が作業し、新たな人員確保が難航する恐れもある。

 また、廃炉作業では原子炉内の構造物や建屋のコンクリートなど膨大な放射性廃棄物が生じるが、処分先をどうするかが課題だ。

 財務面での心配も残る。東電によると、福島第2の解体にかかる総見積額は2766億円で、今年3月末時点で1975億円が引き当て済みだ。とはいえ、想定外の事態に直面すれば費用が膨らむ恐れがある。

 今後、福島第2の廃炉が正式に決まれば、東電にとって現有の原発は停止中の柏崎刈羽原発(新潟県)の7基のみとなる。柏崎刈羽の6、7号機は昨年12月に安全審査に合格したが、6月10日投開票の新潟県知事選で初当選した花角英世氏は再稼働に慎重な姿勢を示しており、再稼働への地元同意の行方は見通せない。東電の経営環境は、なお視界不良といえる。(森田晶宏)

 福島第2原子力発電所 福島県楢葉町と富岡町に立地する東京電力の原発。炉心溶融事故を起こした福島第1原発の南約12キロにある。4基あり、第1原発と同じ沸騰水型軽水炉(BWR)で、いずれも出力は110万キロワット。昭和57~62年にかけて営業運転を開始した。東日本大震災の発生時は4基とも運転中で、地震に伴う津波の被害を受け、1、2、4号機は一時的に冷却機能を失ったが、復旧。炉心溶融などは免れた。

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