【千葉発 輝く】やます 食を通じて日本一の観光地目指す

2018.9.6 05:58

 千葉県の豊富な食材を生かした観光土産品や名産品を扱う製造卸売業として、3000に上る品ぞろえを強みに成田・羽田空港の免税店での販売や直営店「房(ふさ)の駅」を展開。海外卸売り事業にも乗り出し、「食を通して千葉を日本一の観光地にする」ことを目指している。

 東京の台所

 主力商品は、国内生産量の約8割を占める千葉県産の落花生を加工した土産品。このほか県内の農産物や海産物などの食材を使った商品開発と販売を手掛ける。諏訪寿一社長(47)は「千葉には東京の台所として発展した食文化があり、生産量も多く質も高い。こうした食を通して多くの人に千葉を知ってほしい」と話す。

 諏訪社長の父・広勝氏が「やます」の前身である「諏訪商店」を1969年に創業し、観光土産製造卸売業を始めた。成田空港の開港(78年)を見据え、76年には成田営業所を開き販路拡大に乗り出した。

 「当時、同業者は観光地での営業に力を入れる傾向があり、千葉では南部の房州などへ進出した。しかし、父は逆に空港や千葉市、東京都内などの人口密集地に市場を開拓していった。子供だった私は『観光地でもない場所でお土産を買う人なんているのかな』と理解できなかったが、実際には商売が成り立った」と、諏訪社長は先代の先見の明に敬服する。

 小売業に進出

 ただ、時代の変化とともに土産品の製造卸売業を中心とした業態に限界を感じた諏訪社長は、直営店による小売業への進出に活路を見いだし、2000年に「房の駅」を本拠地の市原市内にオープンさせた。

 「長年、卸売業をやっていたので、お得意先さまに迷惑をかけてはいけないという思いがあった。お得意先さまの店が近くにない場所で、人口が多く農産物も集まる場所を探した。それでも『近い』としかられ、謝りに行ったこともある」と当時を語る。現在は市原市をはじめ千葉市や船橋市などで計11店舗を運営している。

 直営店を持つことで、土産品を選ぶ客の嗜好(しこう)の変化をとらえることができた。「近年は洋菓子類の人気が高くなった一方で、つくだ煮や漬物は売れなくなった。年齢層によって好みもかなり違ってくる」と諏訪社長。そうした中で、落花生は年代に関係なく根強い人気があるという。

 そこで高齢者向けにはやわらかい食感の「ゆで落花生」を用意し、若者向けには落花生をカラフルにコーティングした「エンジョイ・ピーナツ」を開発するなど、千葉の特産品でもある落花生の可能性に期待を込める。

 13年には東京・秋葉原に「アキハバラ房の駅」をオープン。ここでは自社製品がどの年代層にマッチするかをリサーチする目的もあった。この中で「エンジョイ・ピーナツ」などの商品が外国人客にも受け入れられ、海外進出への手応えを得た。香港やシンガポール、マカオ、マレーシアなどへの輸出を始め、16年には輸出専門会社「やますインターナショナル」を立ち上げ海外卸事業を本格化させた。

 2年後の東京五輪・パラリンピックは、千葉県内が競技会場になることや成田空港からのインバウンド(訪日外国人観光客)の効果で、県内の観光業にも大きなビジネスチャンスが生まれる。こうした状況を見据え、諏訪社長は「インバウンドが増え、日本の人口は減っていく中で、市場や客層などは劇的に変わり、開発すべき商品も変わってくる。千葉の食材を使い、そのポテンシャルを生かした商品開発をすることにより、新しい需要を生み出していきたい」と話している。(城之内和義)

【会社概要】やます

 ▽本社=千葉県市原市国分寺台中央7-16-2 ((電)0436・21・2637)

 ▽創業=1969年4月

 ▽設立=2015年6月

 ▽資本金=1000万円

 ▽従業員=243人

 ▽事業内容=千葉県産の土産品・名物の企画・販売。県内観光地や道の駅、空港などへの卸売り。直営店「房の駅」での小売り

 ■諏訪寿一社長「商品開発にグループ全体の力結集」

 --創業以来、千葉県の食材を使った土産品を作り続けている。商品開発のこだわりは

 「まずは中身がおいしいもの、健康的なものが大前提。パッケージが格好いいだけの商品にしてはいけない。ブランド力とは、従業員そのものが持つ力。その人たちが自分自身を高めていかないと、中身も外見もきちんとした“本質”がある商品は作れない」

 --本質とは

 「本質とは良い仕事をした上で成り立つもの。社内では『それは何のためにやるの』とか『それ、どういう意味があるの』と自問自答したり議論しながら物事を進めていく。場当たり的に物事を決めてしまいがちな世の中で、1つ筋の通ったことをやっていきたい」

 --千葉のブランド力を上げる取り組みに力を入れている

 「2年前にM&A(企業の合併・買収)でグループ化した小川屋味噌店(千葉県東金市)が作っている甘酒はおいしくて根強いお客さんもいるが、広くは売れていなかった。そこでブランド化を目指し、パッケージに『見返り美人』の絵を使い、商品名も『甘酒美人』に変えて今年3月から直営店やオンラインショップで売り出したところ、人気商品になった。おいしいものを作れる人と、その魅力をお客さまに伝えて販売できる人、それを宣伝する人、それぞれの役割を全うしたとき、こうして商品に力がつくことが分かった。グループ全体の力が結集した事例で、今後の商品開発に生かしたい」

 --海外卸事業にも進出した

 「2016年に『YAMASU JAPAN,INC.』を米ニューヨーク・マンハッタンに設立した。現地に直営店をオープンさせたかったが、トランプ政権になりビザ(査証)の更新ができず出店計画は中断を余儀なくされた。現在も卸事業だけは続けている。いずれチャンスがあれば出店できるように態勢は整えている」

【プロフィル】諏訪寿一

 すわ・としかず 明治大卒。東京都内の食品問屋に勤務した後、1996年、父が創業した諏訪商店に入社。2003年から社長。中小企業診断士としても活躍。47歳。千葉県出身。

 ≪イチ押し!≫新感覚のピーナツ 海外でも人気

 千葉県産の落花生を約20種のフレーバーでコーティングした新感覚のお菓子「エンジョイ・ピーナツ」。サクサクしたコーティングとカリカリの落花生の食感を楽しめる。普段、落花生を食べない人や子供にも気軽に食べてもらおうと2013年に発売した。

 イチゴ、ショコラ、黒ごま、キャラメルなどが人気。ほうじ茶、メロンパン味といったユニークなフレーバーも。

 直営店「房の駅」やオンラインショップなどで販売。1袋80グラム入り380円。

 「房の駅」では20種類がショーケースに並び、カップに好きな味を自由に詰めることができる。1カップ500円。

 広告広報部の柴崎洋一課長によると、カラフルな見た目から海外でも人気が高く、シンガポールでは抹茶やイチゴが売れているという。

閉じる