台風21号で閉鎖の関空、急ピッチの復旧も日本経済に影

2018.9.16 21:23

 台風21号の影響による関西国際空港の機能不全が、日本経済の中長期的な成長にも影を落とす可能性が出てきた。浸水した滑走路やターミナルビルの一部は運用を再開したが、訪日観光や企業物流の全面復旧は見通せない。関空は旅客数、貨物取扱量がともに国内3位になっており、影響は関西経済にとどまらない。(佐久間修志)

 15日午前9時過ぎ。日本航空の被災後初となる国際便が、再開したA滑走路から台北へと飛び立った。第1ターミナル(T1)ビルの一部も営業を再開。石井啓一国土交通相は「本格的な復旧に向けての歩みを着実に始めたことを歓迎する」と話す。

 だが、現状は全面復旧とはいえない。関空を運営する関西エアポート(大阪府泉佐野市)によると、平成29年度の1日当たり発着便数の計515便に対し、16日は約210便。この日に振り分けた大阪(伊丹)への移管分(10便)と合わせても、被災前の半分に届いていない。

 国際貨物エリアは停電や建物の損傷で復旧の見通しが立たないほか、空港と対岸を結ぶ連絡橋の工事着手もようやく見えた程度だ。関空からは半導体などの電子部品が年間約1兆3000億円分輸出されるが、メーカーは他空港への代替輸送で急場をしのぐ。

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 関空が24時間運用の国際空港として開港したのは6年。近隣アジア諸国が成長戦略として大規模な国際空港の整備を推進する一方、日本は首都圏の成田空港が騒音抑制のために深夜早朝の発着ができず、関空は当初からグローバル競争を視野に入れた国際拠点空港として期待された。

 海上空港の建設費用は巨額に上り、当初は高額な着陸料などが利用促進の足かせだったが、国による資産買い取りや2本目の滑走路整備、日本初の格安航空会社(LCC)専用ターミナルの運用開始などで利便性が向上。今では25カ国・地域の約70社が就航、貨物量は開港当初の約1.8倍に膨らむ。今年1~6月期の国内空港全体に占める関空の貿易シェアは輸出が29.3%、輸入20.5%に上る。

 それだけに、中核空港の機能不全による影響は甚大だ。村田製作所はコンデンサー輸出を順次、成田空港に切り替えたほか、関空で航空貨物の2割を取り扱うパナソニックも電子部品の輸出を成田、羽田、中部、福岡の各空港に振り分けた。各社とも物流コストは上昇しており、「業績への影響を精査中」という。

 深刻なのは訪日需要への影響だ。法務省によると、29年に関空から入国した訪日客は全体の約26%に当たる約716万人。関西から東京方面に観光地をめぐる旅程は「ゴールデンルート」と呼ばれる訪日観光の定番コースで、SMBC日興証券は、T1が全面再開する21日までに約36万人が減少、消費額約400億円が消失すると試算する。

 政府は「訪日客に不便をかける期間を極力、短くする」(菅義偉(すが・よしひで)官房長官)とするが、訪日客に人気の大阪・黒門市場は台風通過から2度目の週末も活気が戻らない。すし店の男性店主は「人通りも売り上げも台風前の10分の1くらい」。北京在住という中国人女性は「関空のニュースは中国で連日伝えられた。しばらくは関西を避ける傾向になるのでは」と話した。

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 復旧の遅れは、都市の競争力を高めて投資を呼び込む、政府の成長戦略にも狂いを生じさせかねない。

 空港法に基づく基本方針で、関空は成田や中部などと同様、近隣アジアと欧米を結ぶゲートウエーとして位置づけられる。「路線充実で観光や物流の拠点となれば、国際都市としてホテルなどの外資も集まる」。日本総合研究所の岡田孝主席研究員は、経済の底上げ効果について語る。

 航空需要の拡大に伴い、各国は需要獲得に向けて誘致戦略を展開するが、関空の就航都市数は84都市にとどまり、約1.6倍のソウル2空港やシンガポールのチャンギ空港に水をあけられる。日本政府も世界33カ国・地域と2国間の航空便数制限を撤廃して後押しするが、今回の被災が足を引っ張る可能性がある。

 競争力強化策として推し進める空港民営化も、事前事後にわたる災害対応能力が課題として浮上する。

 関空の空港運営権は関西エアポートにあるが、迅速に復旧を図るには空港を保有する国の新旧関空会社など関係者との連携が不可欠。今後、北海道や熊本などでも空港が民営化される予定だが、岡田氏は「空港会社の運営能力が問われるとともに大規模な災害時の官民の役割分担が重要になる」と指摘した。

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