水素ステーションじわり普及 国内約100カ所、セルフ式も解禁

2018.11.26 07:07

 燃料電池車(FCV)に水素を補充する施設「水素ステーション」が広がりつつある。国内ではこれまでに約100カ所が整備され、政府は2025年度までに320カ所まで増やす目標を掲げる。一定の要件を満たしたドライバーが自ら水素を補充する「セルフ式」も導入された。ただ、現状ではFCVの普及がさほど進んでいないことなどから、採算性は厳しいようだ。整備や運営にかかるコスト回収が課題との指摘もあり、参入企業には工夫が求められている。

FCVプラスα期待

 「水素は、経済成長およびエネルギー安全保障、同時に、大気質の改善・温室効果ガスの削減により、環境保護に貢献することができる」-。主要国の閣僚や政府関係者、民間企業が参加して10月23日に東京で開かれた「水素閣僚会議」で示された「東京宣言」では、水素が持つ可能性についてこう言及した。

 水素は、石油などの化石燃料だけでなく、太陽光や風力といった再生可能エネルギーからもつくれるため、主に中東の化石燃料に大きく依存した日本にとってはエネルギーに関するリスクの低減につながる可能性を秘めている。また、水素は燃料として利用するときに二酸化炭素(CO2)を排出しないため、将来的に地球温暖化対策の切り札になるとも期待されている。

 その水素を利用する対象の一つが、FCVを中心とした自動車関連だ。政府は昨年12月に策定した「水素基本戦略」で、FCVを20年までに4万台程度、25年までに20万台程度、30年までに80万台程度の普及を目指すとした。水素ステーションについても、20年度までに160カ所、25年度までに320カ所の整備を目標とし、20年代後半までに「水素ステーション事業の自立化を目指す」と記した。

 企業の間では、水素ステーションの展開に乗り出す動きが出ている。JXTGエネルギーは首都圏のほか中京圏、関西圏、北部九州圏で40カ所を手掛け、国内の水素ステーションの約4割を占めるなど先行している。同社幹部は「水素の利活用は自動車だけに限らない。将来的にクリーンエネルギーの一翼を担うのは間違いないので、何ができるのか研究したい」と話す。

 岩谷産業も兵庫県尼崎市の第1号を皮切りに、今では23カ所を運営。また、東京ガスは今月12日、燃料電池バスの受け入れが可能な水素ステーションを東京・豊洲に建設すると発表。19年中の営業開始を予定する。

 一定の要件を満たした場合のセルフ式も解禁され、JXTGエネルギーと岩谷産業は10月、既設の水素ステーションでセルフ式をそれぞれ導入。ドライバーは企業と契約した上で安全講習を受講するなどすれば、自ら水素をFCVに補充できる。

五輪時にバス100台

 水素ステーションの整備は着々と進んでおり、政府が水素基本戦略で掲げた「20年度までに160カ所」は決して遠くないように映る。これに対しFCVの普及は約2800台にとどまり、「20年までに4万台程度」との目標には相当の距離がある。

 水素ステーションの整備とFCVの普及が両輪となるのが理想だが、今のところはFCVの普及の遅れなどから水素ステーションが大幅に先行している。

 あるエネルギー企業の幹部は「FCVがなかなか増えていない中、(自社の)水素ステーション事業はペイしていない」と語り、現状では損益が赤字であることを認める。その上で、採算性については「FCVの普及ペース次第だ」と指摘する。

 水素ステーションは規模などにもよるが、1カ所の整備費用が「5億円程度かかる」(関係者)とされる。調査会社の富士経済は今年3月、水素ステーションについて「FCVの普及に先行して整備が行われているが、整備・運営にかかるコスト回収が課題」と指摘。16~17年度の新設件数は15年度の半数にも及ばず、鈍化傾向にある。

 こうした中、今年3月には国内の自動車メーカーやエネルギー企業など11社が、新会社「日本水素ステーションネットワーク合同会社」を設立。“オールジャパン”態勢で水素ステーションの本格整備や効率運営に取り組む。事業期間を10年間と想定し、第1期の4年間で80カ所を整備する-などとしている。

 開催まで2年を切った20年の東京五輪にも、起爆剤としての期待が寄せられる。東京都環境局は、燃料電池バスを20年までに都内で100台以上普及させたいとしている。前出のエネルギー企業の幹部は「東京五輪では水素が一つのテーマになる。(水素ステーション事業の後押しとなる)足掛かりが欲しい」と話す。(森田晶宏)

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