回転すしの廃棄率は? くら寿司が「3%」に抑えられるワケ

2018.12.5 18:17

 大手回転すしチェーンで食事をしていると「たくさんのすしがレーン上に流れてくるけれど、これが全部食べられているのかなあ」と疑問を抱くことがある。しかも、「自分の好きなものだけを食べたい」という欲求があるため、テーブルのタッチパネルでどんどん注文してしまう。すると、ますますレーン上のすしの廃棄量が気になってくる。(昆清徳,ITmedia)

 では、大手回転すしチェーンではどの程度すしを廃棄しているのだろうか? くら寿司の広報担当者に尋ねてみると、一度レーンに流したすしの廃棄率は約3%だという。

 くら寿司ではすしやスイーツなど約160種類以上のメニューをそろえており、昼食などの混雑時になるとレーン上にはさまざまなすしが常時流れているが、どのようにして廃棄率を抑えているのだろうか。

O-157の集団感染をきっかけに科学的な管理を推進

 廃棄率を下げるキーとなるのは、レーン上に流れるすしを“科学的”に管理するテクノロジーだ。くら寿司はいつごろから本格的に開発に取り組むようになったのだろうか。

 そのきっかけとなったのは、大阪府堺市で1996年に発生したO-157の集団感染だ。当時、学校給食などで9000人以上が感染し、死亡者まで出たいたましい事件だ。

 堺市に本社があったくら寿司は、この事件を「他人ごとではない」と判断し、レーン上を流れるすしの管理体制を見直すことにした。

 それまで、くら寿司では皿の上に置くすしの並べ方を変えたり、皿の色を変えたりして投入時間を把握し、古くなったものを廃棄していた。

 同社が調査すると、菌がすしに付着した場合、2時間以上経過すると人体に危険を及ぼすレベルに達することが分かった。そのため、くら寿司では97年に「時間制限管理システム」を導入。皿の下にQRコードを張り付け、カメラで時間を計測するようにした。そして、レーンに投入してから55分経過したすしを廃棄するルールを作成したところ、廃棄率が10%に上昇した。安全性は担保されるが、廃棄率が高いままでは収益を圧迫してしまう。そこで、別のアプローチを考えることにした。

お客の満足度と廃棄率のジレンマ

 回転すしチェーンは、レーン上の欠品とお客の満足度のバランスをどのようにとるのかという点に腐心してきた。テーブルに着席してすしを食べようとしたときに、レーン上に自分が食べたいものがないという事態は避けなければいけない。しかし、無計画にすしを流してしまえば、廃棄のリスクは高まってしまう。

 くら寿司では科学的な管理を推進する前、レーン上に流すすしの種類や量を判断していたのは店長だった。例えば、多くのお客がメロンやアイスクリームを食べ終わった状態で、店の入口にほかのお客が並んでいたとする。そのタイミングで多くのすしをつくって流せば、新しいお客がテーブルについたときにはレーン上のすしが充実している状態になる。

 それまで、店長は頻繁にテーブルの様子を見て回り、自分の勘と経験で投入するすしを判断していた。しかし、お店ごとにサービスの質がバラバラになるという課題もあった。

廃棄率を下げるメリット

 そもそも、廃棄率を下げるメリットは何だろうか。

 まず、すしは原価率が非常に高い商品だ。広報担当者によると原価率は50%近くあるという。他業界の原価率と比較すると、吉野家を運営する吉野家ホールディングスは35.1%(18年2月期)、日高屋を運営するハイディ日高は27.2%(18年2月期)なので、その高さが際立つ。廃棄率を低くすれば、利益率に寄与する割合が他業界より大きいのだ。

 また、すしは鮮度が命の商品だ。廃棄率が低いということは、常に鮮度のいい商品がレーン上を流れることにつながるので、お客の満足度は高くなる。

 このようにみると、回転すしチェーンが廃棄率を重視することが分かるだろう。

鍵となるのは飲食状況の「見える化」

 廃棄率を下げるには、お客の食べている状況をリアルタイムで「見える化」し、適切なタイミングですしをレーンに供給する必要がある。くら寿司では、98年に「製造管理システム」を導入。このシステムを進化させるだけでなく、さまざまなデータと組み合わせることで、予測精度を高めてきた。

 まず、製造管理システムの説明をしよう。お客が入店した際、くら寿司では大人と子どもの人数を専用システムに入力する。また、お客の滞在時間を「入ったばかりのお客」「食べている最中の客」「食べ終わったお客」の3つで把握している。こうすることで、「これから食べようとする大人1人分のすし消費量」などが予測できる。

 そして、この製造管理システムに「鮮度くんのICチップから得られるデータ」と「ビッグデータ」の2つの情報を組み合わせている。

 くら寿司では、レーン上を流れる皿の上に「鮮度くん」と呼ばれる透明なふたをつけている。これは、ウイルスやつばが付着しないようにするためのものだが、もう1つ別の役割がある。ふたの上部にはICチップが入っており、レーン上にあるすしの種類と量が分かるようになっているのだ。また、くら寿司では過去の注文履歴や販売データなどを大量に蓄積している。

 これらのデータを組み合わせることで、リアルタイムにレーンに流す皿数や製造するタイミングを管理指示する体制をつくりあげているのだ。

タッチパネルの導入によりさらに複雑化

 話はやや前後するが、ここで2002年に導入されたタッチパネルのことについて触れないわけにはいかない。

 くら寿司は製造管理システムなどの拡充により、需要予測精度が高まり、廃棄率を下げることに成功していた。しかし、お客が好きなときに好きな商品を注文できるタッチパネルの導入時には、その是非を巡って激しい議論が繰り広げられたという。

 タッチパネルを導入することで、個別注文をするお客が増えてしまい、すしの廃棄量が増えるのではないか? という懸念の声が強かったのだ。最終的には経営トップの鶴の一声で導入が決まったが、くら寿司ではタッチパネルでの注文があるという前提でシステムをつくりかえることにした。現在では当たり前のように普及したタッチパネルだが、その裏ではシステムを進化させる取り組みが続いていたのである。

廃棄率を巡る各社の取り組み

 くら寿司に限らず、大手すしチェーンは廃棄率を下げるための取り組みを近年強化しているが、その一方で“回らないすし”を強化する流れもある。例えば、あるチェーンの担当者は「すしがずっとレーン上をグルグルと回っているとお客さまが『ネタが古くなった』と思われます。そこで、テーブルのタブレットを使い、自分の好きなものだけを注文する傾向が強まっています」と説明する。そこで、回転するすしをやめて、注文を受けてから専用レーンで流すタイプの店舗を増やすところもある。店内を改装することで、売り上げが改装前から1~2割増えるケースもあるそうだ。

IT化を推進することで他地域への進出が可能に

 ここまで解説した廃棄率低下の取り組みだけでなく、くら寿司では店舗の自動化を積極的に推進してきた。例えば、食べ終わったお皿をテーブルに備え付けられた穴に投入することで、レーンの下を流れる水に運ばれて洗い場まで移動する「水回収システム」を開発したり、厨房に「握りロボット」や「細巻きロボット」を導入したりしてきた。

 広報担当者によると、こういったくら寿司の「自動化」の土台となる仕組みは2000年代にほぼ出来上がったという。人間の勘や経験に頼る店舗運営から徐々に自動化や合理化を進めることで、全国展開が可能になったというわけだ。実際、02年に関東初出店を果たしたり、09年に九州に初進出したりと、くら寿司は急激に運営エリアを拡大してきた。

 そして、店舗運営における人手を調理に割けるようになったことで、すし以外のメニュー数を増やせるようになった。くら寿司の厨房には「オートフライヤー」や「ゆで麺機」などがずらりと並んでおり、従業員がマシンを操作すれば簡単に料理が提供できるようになっている。

 現在、地方では倒産する回転すしチェーンが増えるなど、競争が激化している。自動化やIT化を進め、廃棄率や人件費を下げ、より豊富な品ぞろえを実現するチェーンが生き残るようになってきているのだ。

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