米中対立、英EU離脱…経済に火種 2019年

2018.12.31 20:48

 2019年の日本経済は米中貿易摩擦など世界経済の波乱要因に振り回されることになりそうだ。今年は16年半ばから続く世界経済の堅実な成長の転換点となる可能性がある。日本にも影響が及べば、10月に予定される消費税増税の実現も危ぶまれるとの指摘も出てきた。一方、世界経済をめぐっては、モノのインターネット(IoT)や人工知能(AI)の普及という追い風も吹いている。日本でも「つながる家電」などの新たな市場の創出が進んでおり、電機各社は従来の家電を売るだけのビジネスからの脱却を図っている。(田辺裕晶、飯田耕司)

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 「16年秋の米大統領選挙のころから始まった世界経済の堅実な拡大が曲がり角を迎える恐れがある」

 ある国際金融筋は19年の世界経済の先行きをこう見据える。米国や中国などが引っ張ってきた世界経済を失速させかねない出来事が数多く控えているからだ。

 世界経済にとって最初の関門は3月。昨年から継続中の米中の貿易協議が不調に終われば、米国の対中追加関税が2日に10%から25%に引き上げられる。大和総研によると、発動された場合の実質国内総生産(GDP)への下押し効果は、米国で0.28%、中国で0.22%に達するという。

 火種は欧州でもくすぶる。英国と欧州連合(EU)の離脱交渉は昨年12月に予定されていた合意案をめぐる英議会の採決が延期され、今も承認のめどが立たない。今年3月29日の期限で「合意なき離脱」に至れば、英国はもちろん欧州でも経済活動や市民生活が大混乱に陥りかねない。

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 次いで日本経済に大きな影響を及ぼす可能性があるのが米連邦準備制度理事会(FRB)の動向だ。FRBは6月に専門家を集めた会合で金融政策の妥当性を検証する予定。FRBが景気過熱を防ぐために進めている段階的な利上げが年内に止まるとの見方も強い。米国の利上げが止まれば、長期金利を0%に誘導する日本との金利差拡大も止まる。この結果、円を売ってドルを買う流れが弱まり、日本の景気を下支えする円安基調が緩む恐れがある。

 一方、日本では10月1日に消費税率の10%への引き上げが予定されている。安倍晋三政権は増税の経済への悪影響を防ごうと、キャッシュレス決済時のポイント還元制度の導入を決めるなど躍起だ。ただ、世界で相次ぐイベントの悪影響が日本に及べば、消費税増税自体の実現に疑問符がつく可能性もある。

 10%への引き上げはもともと15年10月に予定されていたが、2度にわたって延期された経緯がある。安倍首相が米大統領選前の16年6月に2度目の延期を決断した背景には、世界経済を牽引(けんいん)していた中国の景気失速などで円安の好循環が崩れた事情があった。みずほ総合研究所の高田創チーフエコノミストは「円高トレンドに一気に転じれば16年の悪夢が再来しかねない」と指摘する。

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 こうした世界経済の減速が見込まれる中、下支え役として期待されるのがIT産業だ。IoTやAIで業務の効率を高めることは企業などにとって必須で、電子情報技術産業協会(JEITA)は、19年の電子情報産業の世界生産額は前年比4%増となり、3兆458億ドル(約335兆円)に達すると見込む。

 世界的な市場拡大は日系企業にも追い風となりそうだ。日系企業の世界市場でのシェアは12%程度まで下がっているが、電子部品の分野に限れば約4割を維持しており、依然として存在感は大きい。

 IoTやAIの浸透は日本国内でも新たな市場を生み出しつつある。調査会社の富士キメラ総研によると、住宅内の家電や設備がネットでつながる「スマートホーム」の関連市場規模は18年見込みで3兆936億円。25年には4兆円を超えると予想される。

 日本の電機メーカーではつながる家電の品ぞろえを増やす動きが続く見通しだ。パナソニックは3年以内に冷蔵庫や炊飯器など製造するすべての種類の家電に広げる方針。またシャープは2年以内に、つながる家電の比率を全商品の5割(現在は2割程度)に上げるとしている。

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 つながる家電はすでに個人の生活に利便性をもたらしている。例えば洗濯機の場合、スマートフォンで帰宅時間に合わせて洗濯と乾燥が終わるよう指定すれば、乾燥まで済んだ直後に衣服を取り出し、しわがつく前に収納できるメリットがある。日立製作所はネット経由で洗濯機の洗い方コースを増やせる機能を付けた。

 冷蔵庫では、買い物をした食材を入力すれば、冷蔵庫の中身に応じて食事のメニューを提案する商品が目立ってきた。鶏肉を買っている場合は、「今日はこの前買った鶏肉で『鶏肉のつけ焼き』はどうですか?」などとすすめてくれるといった具合だ。

 つながる家電はメーカー側にもメリットがある。薄利多売とされてきた白物家電に「高品質」「高性能」という価値をつけることで、販売単価を上げることができるからだ。

 また、つながる家電を新たなサービスのツールとし、将来にわたって課金ができる利点もある。

 シャープはすでに調理家電「ヘルシオ」向けの食品宅配サービスを開始。洗濯機でも、「洗剤がなくなるタイミングで追加の洗剤を配達したり、新たな洗い方を有料で展開したりするなどの施策を考えたい」(檜垣整メジャーアプライアンス事業部長)としている。

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