エイシング、AIチップ独自開発 世界初、クラウド介さず自律学習可能に

2019.2.6 06:28

 岩手大学発ベンチャーのエイシング(東京都港区)は、機器自らが動作状況など自律学習できる人工知能(AI)チップを世界で初めて開発した。「エッジコンピューティング」というクラウドを介さずに自律学習できるため、クラウド経由よりも短い時間でさまざまな情報処理が可能になる。働き方改革や技術・技能の伝承などといった生産現場の課題解決にも役立ちそうだ。

 このチップを自動車の世界で活用すると、ステアリングの角度と車速を手掛かりに横方向の加速度を予測したり、一人一人のアクセルの踏み方を瞬時に分析して最適な加速を実現させられるようになるという。また、生産現場では、コンベヤー上を流れる材料の蛇行を修正して不良品を減らすことにも役立てられる。

 AIの一種である機械学習の分野ではこれまで「ディープラーニング」(深層学習)と呼ばれる手法が一般的だが、学習精度を高めるために、データの選別などといったパラメーター調整という作業が不可欠になり、新たなデータを追加する場合、最初から学習し直す必要があった。

 エイシングの機械学習技術は、最高技術責任者(CTO)である岩手大理工学部の金天海准教授の研究成果を基にした「ディープ・バイナリー・ツリー(DBT)」と呼ばれる独自のもの。機械の動作を予測したり最適化したりする制御や、機械のシミュレーター作成、売り上げ予測などの統計解析が得意だ。人間の脳に例えると「反射的な反応ができる小脳のような働き」(出沢純一社長)をする。

 DBTはディープラーニングのように多数の情報を処理することは苦手なので、画像や音声の認識や解析には向かないが、出沢社長は「ディープラーニングとの補完関係にあり、すみ分けや共存ができる」という。

 昨年11月にはオムロンと提携し、工場などの制御機器に組み込むAIの共同開発に乗り出したほか、JR東日本とも共同で上越新幹線沿線の気象条件を手掛かりに散水消雪機の水の温度を最適化する技術の共同研究に取り組んでいる。

 エイシングは、当面はこのチップの一般販売はせずに、共同研究先にライセンス供与の形で提供する方針だ。

【会社概要】エイシング

 ▽本社=東京都港区赤坂6-19-45 赤坂メルクビル1階

 ▽設立=2016年12月

 ▽資本金=1億円

 ▽事業内容=組み込み用AIアルゴリズムの開発など

閉じる