【経済インサイド】乱戦「第3のビール」 消費増税逆手に新商品ラッシュ

2019.3.12 06:50

 国内ビール各社が「第3のビール」の新商品投入が相次いでいる。第3のビールは、14年連続でビール類全体の市場が縮小し続ける中で唯一プラス成長を果たし、いま最も期待されるカテゴリーだ。昨年は低価格を武器に躍進を遂げ、消費税増税を控える今年も価格志向の消費者からさらなる支持拡大を見込む。新商品ラッシュで第3のビール市場は“乱戦”模様だ。

 市場縮小、初の4億ケース割れ

 第3のビール市場が注目される背景にあるのは、いっこうに歯止めがかからないビール類市場の縮小がある。

 ビール大手5社が1月に発表した「ビール類」(ビール、発泡酒、第3のビール)の平成30年課税出荷量は、前年比2.5%減の3億9390万ケース(1ケースは大瓶20本換算)となり14年連続マイナスを記録した。統計を開始した4年以降、4億ケース割れとなったのは初めてで、その凋落(ちょうらく)ぶりが改めて浮き彫りになった形だ。

 理由は消費者の選択肢の多様化だ。ワイン、酎ハイ、ウイスキー…。「飲み会でも1杯目はビールでも2杯目以降は別の飲み物を選ぶ人が多い」(大手ビール会社幹部)。

 すなわちアルコールといえばビールという図式はすでに過去のものというわけだ。

 もっとも注目しなければならないのはビール類の内訳だ。マイナスとなったのはビール(5.2%減、1億9391万ケース)と発泡酒(8.8%減、5015万ケース)で、いずれも3年連続のマイナス。しかし第3のビールだけは3.7%増の1億4983万ケースと5年ぶりに増加に転じた。

 つまりパイが年々、縮小を続ける中で第3のビールが唯一プラス成長を遂げた形となっている。

 本麒麟の躍進

 このカテゴリーの立役者はキリンだろう。第3のビール「本麒麟」は力強いコクと飲み応えのある、ビールに近い味わいを実現。累計販売数量は1月下旬時点で1千万ケースを突破した。発売から約10カ月での1千万ケース突破は過去10年のキリンの新商品でも最速だ。

 さらにキリンが昨年から生産受託したイオンのプライベートブランド(PB)である第3のビール「バーリアル」が消費者に受け入れられたことも大きい。

 ヒットの理由は割安価格で、本麒麟(350ミリリットル)の場合、116円で売られているスーパーもある。バーリアル(同)にいたってはわずか84円。ビールが通常200円台で売られていることを考えれば、「両ブランドの人気は節約志向の消費者に刺さった結果といえるだろう」(業界関係者)。

 この結果、第3のビールで強いキリンは同年課税出荷量のメーカー別シェアで、首位アサヒに肉薄している。アサヒが前年比1.7ポイント低下の37.4%だったのに対し、2位キリンは同2.6ポイント伸ばして34.4%と差を縮めた。価格を武器にした商品を戦略的にぶつけてきたキリンの勝負強さが垣間見えるといえる。

 第3のビール新商品ラッシュ

 今年は消費税増税を控え、価格志向の消費者が割安な第3のビールにさらに流れる公算が大きい。各社はこのため、キリンの背中を追って、相次ぎ第3のビールの自信作を投入する。

 アサヒはキレと飲みごたえを両立させた「極上〈キレ味〉」を発売した。ビールに近い「ニアビール」(平野伸一社長)というジャンルで、銀色に輝くパッケージはスーパードライを意識したようだ。

 サントリービールは2ブランドを新たに投入。「金麦〈ゴールド・ラガー〉」と「マグナムドライ〈本辛口〉」で、特に金麦は真っ赤なパッケージを採用しており、本麒麟を強くライバル視したのは明らかだ。

 サッポロビールも4月に「本格辛口」を出す予定だ。

 ただ、迎え撃つキリンは新商品をアナウンスしていない。今年の事業方針として、主力ブランドへの集中投資を打ち出し、「絞りの効いたマーケティングを続ける」(布施孝之社長)ためだ。本麒麟は味覚とパッケージをリニューアルして、さらにユーザー獲得を目指す考えで、今年の販売目標は前年比46.8%増と強気の設定だ。

 ビール類市場は危機が叫ばれるようになって久しい。手作り感が売りのクラフトビールも登場しているが、なお成長途上にある。相次ぐ新商品投入で活気づく第3のビールが、ビール離れを起こした消費者を再び振り向かせることができるかどうか。その成否はビール業界の未来を映すことにもなりそうだ。(柳原一哉)

 ■第3のビール 大豆やトウモロコシなどを主な原料にした製品と、発泡酒にスピリッツを加えた商品に大別される。ビール類の酒税は税率が3段階に分かれており、第3のビールは最も低いため価格が割安になる。

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