ロボットトラクター相次いで投入、農機メーカー熾烈な開発競争

2019.8.16 06:50

 ロボット技術や情報通信技術(ICT)を駆使して農作業の効率化を図る「スマート農業」が実用段階を迎えた。大阪に本社を置く農機大手のクボタやヤンマーなどが自動運転技術を搭載した最新機種を相次いで市場に投入。作付け状況や肥料の散布量などのデータをクラウド上で管理し、収益改善につなげるサービスも普及してきた。農家の担い手不足や高齢化が問題になる中、最先端技術による農業再生に期待が高まっている。(林佳代子)

 省力化実現

 7月末、富山県高岡市の中心部から南西約3キロの畑で、オレンジ色のクボタのトラクターが農薬のまかれた土を耕していた。運転席に人の姿はない。作業員が近くで監視していれば無人で動かすことができるロボットトラクターだ。

 リモコンを操作して発進を指示すると、衛星利用測位システム(GPS)で位置情報を把握し、作業ルートを自動で進む。畑の端まで行くと素早くターン。約20アールの区画を30分もかからずに耕し終えた。

 ロボットトラクターを活用するのは、農家から請け負った計約130ヘクタール(約600枚)の田畑で米やサトイモ、ニンジンなどを栽培する同市の農業法人「クボタファーム紅(くれない)農友会」だ。

 紅農友会は規模が拡大して複雑になった農作業を効率化しようと、3年前からクボタの営農支援サービスを活用。農作業のデータをクラウド上で管理するとともに、最新農機などの先端技術を積極的に取り入れてきた。2年前にはクボタのグループ会社から出資を受け、農業経営モデルの高度化を加速している。

 田畑を耕す際、従来のトラクターはベテラン作業員でも幅十数センチの誤差が生じるが、ロボットトラクターなら5センチの範囲に収まる。稲作で最も気を使う水の管理も、スマートフォンの操作で水田の給排水バルブを開閉して水位を自動調節するシステムを導入した。

 今年3~6月の繁忙期には、全17人の従業員が作業時間を平均2日間も短縮できたという。紅農友会の山口義治専務取締役は「気が抜けず、苦しいことが当たり前だった農業が変わった。未来に希望を持てるようになった」と話す。

 開発しのぎ

 農業は人手と手間を要する労働集約型産業の典型とされてきた。それが今、スマート農業の進展で大きな転機を迎えている。

 無人トラクターや農業ロボットを研究している北海道大の野口伸教授(農業情報工学)は「農家は将来、機械でできる作業は機械に任せ、どのような農作物をどこに売るのかといったビジネス戦略に力を注ぐようになるだろう」とみる。

 技術革新の中でも自動運転の重要度は高く、農機メーカーは熾烈(しれつ)な開発競争を繰り広げている。

 「無人化」を売りにしたロボットトラクターは、クボタが約3年間の開発期間を経て平成29年にいち早く試験販売を開始。30年にはヤンマーと井関農機が追従し、市場シェアの大半を占める大手3社で農機の自動運転の「レベル2」に該当する製品が出そろった。

 作業員が有人トラクターに乗って監視しながらロボットトラクターも同時に動かすと、作業効率は1・5倍に跳ね上がるとされる。クボタの佐々木真治専務執行役員は「ロボットトラクターの導入で農家の生産性は大幅に向上する」とアピールする。

 その後、クボタは稲を刈り取るコンバイン、ヤンマーは苗を植え付ける田植え機で自動運転対応の機種を発売した。クボタは来年秋にも自動で作業する田植え機を市場に投入し、主要な3つの農機で自動運転を実用化する計画だ。

 ただ、自動運転農機は高機能の機種では価格が1千万円を超え、普及が困難な側面もある。ヤンマーホールディングス傘下で農機を扱うヤンマーアグリ(大阪市)の日高茂実・開発統括部長は「コストダウンを図るには販売台数を増やすことが不可欠。まずは導入に向けて顧客の間に自動運転の機運を高めていくことが課題だ」と指摘する。

 異業種連携

 矢野経済研究所(東京)によると、スマート農業の国内の市場規模は、令和6年度に平成29年度(約129億円)の3倍の約387億円に成長すると見込まれる。事業の将来性に期待する異業種からの参入も盛んで、画像解析や情報通信に強みを持つキヤノン、人工知能(AI)への投資を加速するソフトバンクなども商機をうかがっている。

 激しい競争で先行するためには、自前主義にこだわらず開発スピードを速める必要がある。ヤンマーは29年、ドローン(小型無人機)を使って農作物の生育状況などを画像解析する事業で、コニカミノルタの技術を活用するため合弁会社を設立した。

 クボタも今年、社内に異業種との連携を目指す新組織を立ち上げた。「自社だけではカバーしきれない技術の開発に取り組む」(広報担当者)としている。

 スマート農業は異業種の力を借りて、さらに多様な変化と創造を生産現場にもたらそうとしている。

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