【高論卓説】友好・連携は両国国民の利益 日韓の対応、内外に示せ

2019.8.21 09:00

 私は1964年、在日の人たちが多く住む横浜市鶴見区にある公立小学校に入学した。日韓国交正常化がなった65年は2年生、その意味を理解するには幼すぎた。しかし、それにより在日の人たちの地位保全がなされ、地域の大人たちも日本の子供と在日の子供が同じ学校で学び遊ぶことを容認していった時代だ。そのことは肌で感じとっていたし、実際、私の遊び友達には在日の同級生が多かった。(ダイバーシティ研究所参与・井上洋)

 23年9月1日、南関東を襲った関東大震災では、朝鮮人に対する悪意ある流言が広まった。鶴見には、それに追われて逃げてきた人たちを守った大川常吉という警察署長がいた。そのことは鶴見区の小学校に通う子供ならば、地域の歴史として必ず教わった。私はそれを誇りに感じ、在日の人たちと穏やかな関係を築いてきたと自負している。韓国の文在寅大統領はじめ要人の反日的な言動は、国交正常化を実現させた当時の両国関係者の努力と決断、日本の戦後世代の心を踏みにじるものだ。

 南北統一により、日本を打ち破る経済力をつけるという文政権は、どのような時間軸でそれを実現しようとしているのだろうか。世界経済の減速、株式・為替の不安定化など経済状況変化への備えは十分か。韓国を狙うミサイルの発射実験を繰り返す北朝鮮とどう和解し、米国に頼ることなく自らの力で朝鮮戦争を終結させ、半島の非核化を図ることができるのだろうか。

 南北間の経済格差は歴然としている。ドイツの東西統一以上の困難が伴うだろう。アジアの国々の協力、それも官民挙げての協力なくしては、円滑な南北統一は達成できないが、韓国政府はそのシナリオを持ち合わせているのだろうか。

 「日韓請求権並びに経済協力協定」や「慰安婦問題日韓合意」が厳然として存在するにもかかわらず、それを振り出しに戻すことに躊躇(ちゅうちょ)しない韓国の政治家や活動家によって反日運動が何度も繰り返される中、日韓の心ある人たちがいくら民間交流を活発化させ産業協力を深化させても、反日の大きな声に韓国世論の振り子はいとも簡単に逆方向に振れてしまう。近年では、韓国側の状況を見て、日本人の反韓の振り子の振れ幅も大きくなっている。

 愛知トリエンナーレの企画展『表現の不自由展・その後』が3日で中止に追い込まれたのは、繰り返される反日運動に日本人が嫌気をさした証左である。自分のあずかり知らない何十年も前のことで、なぜ、ここまで責められ続けなければならないのか。過去の過ちを決して繰り返さないと平和主義を貫いてきた日本の戦後世代をまるで信じない隣国の人たち、それへの嫌悪が高まっているのだ。

 一方、安倍政権には、隣国との関係を険悪なままにして、人口減少と高齢化により経済力の衰退が懸念される日本を発展させていくビジョンがあるのかと問いただしたい。多文化共生により地域の産業経済を維持・強化させようと、つい数カ月前に宣言した安倍政権が隣国と軋轢(あつれき)を起こしている。このままでは、日本に対して冷ややかな視線を向けるアジアの人たちがますます増えるだろう。日本は信用されず、インドほか急成長するアジア各国からそっぽを向かれかねない。

 日韓両国の外交当局はお互いに歩み寄り、折り合う術を見つける努力を水面下で行っていると信じたい。日韓の友好・連携は、両国国民の利益になるものだ。日韓政府は一刻も早く、現実的な対応と将来を見据えた戦略を打ち立て、内外に示すべきだろう。韓国の国花はムクゲ。ムクゲは、この暑さの中、日本の辻々でも咲いている。少し頭を冷やして考えてみたい。

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【プロフィル】井上洋

 いのうえ・ひろし ダイバーシティ研究所参与。早大卒。1980年経団連事務局入局。産業政策、都市・地域政策などを専門とし、2003年公表の「奥田ビジョン」の取りまとめを担当。産業第一本部長、社会広報本部長、教育・スポーツ推進本部長などを歴任。17年に退職。東京都出身。

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