【経済インサイド】業界の常識に反しペットボトル紅茶が売れた 今夏の“異変”を分析

2019.10.15 07:05

 国内ペットボトル飲料市場で今夏、ちょっとした異変が起きた。気温が上がる夏場に販売数量が落ちるミルクティーを筆頭に、ストレートティーやフルーツティーなど、ペットボトル紅茶が健闘したのだ。その背景にあったのは、大人世代の健康志向に寄り添う味づくりと、暑さが長続きしなかった夏の不調、そして国内を席巻する“アイツ”の存在とみられている。

 ペットボトル紅茶市場を牽引するキリンビバレッジの「キリン 午後の紅茶」ブランドの販売数量は、今年上半期(1~6月)に過去最高の2590万ケース(1ケースは500ミリリットル入りペットボトルで24本換算)を記録していたが、その勢いは夏も止まらなかった。7月は前年同月比5%増、8月も14%増と前年実績を上回った。3月に投入した「ザ・マイスターズ ミルクティー」が、8月下旬に当初予定の3倍を上回る累計販売4200万本を突破したことに加え、「おいしい無糖」も支持を集めたことも寄与したという。

 この2商品に共通するのが「甘くない紅茶」だ。午後ティーの基幹3商品は10代若年層が支持する「甘い紅茶」なのに対し、「ザ・マイスターズ ミルクティー」は微糖かつ本格的な紅茶の味わいを実現したことで、健康志向の30代、40代の女性をリピート買いを促た。「おいしい無糖」も、緑茶など無糖系を好む人をがっちり抱え込んだ。

 サントリー食品インターナショナルが「想定以上の売れ行き」と言うのが、3月発売の「クラフトボスTEA ノンシュガー」と7月発売の「クラフトボス ミルクティー」。2商品合わせて1億本を売り上げた。業界の常識とされる夏場に売れないミルクティーを7月に投入したが、すっきりゴクゴク飲める「クラフトボス」ブランド特長が支持されたとみられる。

 業界関係者は「クラフトボスが売れても午後ティーは伸びた。両者を交互に買うのではなく、紅茶を茶葉でいれて飲んでいた人や、緑茶などの別のジャンルの飲用者を取り込んだのではないか」と分析する。

 フルーツティーも好調だった。伊藤園の「TEAs’ TEA NEW AUTHENTIC 生オレンジティー」は、8月5日の発売から約1カ月で1200万本を突破。「本当の紅茶ファンを取り込みたい」(同社)と、甘すぎず、紅茶の華やかな香りを追求。ゴクゴク飲める点が受けたようだ。日本コカ・コーラも、フルーツティーシリーズ「紅茶花伝 クラフティー」を3月にリニューアル。甘さ控えめで果汁を増量したところ、「好調に推移している」という。9月に投入した「紅茶花伝 ロイヤルミルクティー」は、ミルクと茶葉の配合を変えて“すっきり志向”へ転換した結果、品薄状況となっている。

 実は、大手カフェチェーンで紅茶の定番メニュー化が進んだことで、ペットボトル紅茶も伸長する芽があった。そこに到来したのが、若い女性を中心に人気沸騰中の“アイツ”、タピオカミルクティーだ。「冬場の飲み物」の印象だったミルクティーの立ち位置をがらりと変えた。

 今年6~8月の夏の天気は、東北地方以外は雨量が多く日照時間が短かったことが、紅茶類への追い風になったとの指摘もある。

 一部の小売りは、今後もペットボトル紅茶が勢いを増すとみて、陳列量を増やす動きもある。ひと雨ごとに気温の下がる中、「飲料・秋の陣」はこれからだ。(経済本部 日野稚子)

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