SBIホールディングスが地銀へ出資 勝算を「地銀はもうダメ」論から考える

2019.11.11 09:00

 地方銀行はもうダメだ--。 半ばあきらめに近いこの種のフレーズは、今やビジネスパーソンの間でなかば常識だといっても過言ではない。一方で、島根銀行と資本業務提携を実施したSBIグループのように、地銀との連携に関してビジネスチャンスを見出すプレーヤーが存在するのもまた事実だ。

 まことしやかにささやかれている「地銀はもうダメ」論だが、どこがそれほどダメなのかを確認し、それでも地銀との提携を推進するSBIグループの狙いは何かを探っていきたい。

 そもそも何がダメなのか?

 そもそも、地銀がもうダメだと認識され始めた背景としては、2015年7月に金融庁が公表した「金融モニタリングレポート」における経常利益見通しの存在が大きい。

 当時の試算では、全国に存在する8割以上の地銀の経常利益について、2018年度には当時よりも大幅に減少する可能性があることを指摘していた。この試算は、地銀の再編やビジネスモデル転換の必要性を含めた議論のきっかけにもなった。

 それでは、金融庁の試算は現実となったのか。全国地方銀行協会が今年6月にとりまとめた地銀の18年度決算では、全国63行のうち約7割に相当する45行の経常利益が減少していたことが明らかになった。試算から3年あったにもかかわらず、その結果を回避できない地銀が多数となったのはなぜだろうか。

 その大きな要因は14年10月31日に導入されたマイナス金利の長期化だ。国債を中心に預金を運用する地銀にとって、マイナス金利は運用商品の利回り低下をもたらし、収益を圧迫する存在となった。

 これまでの銀行は、預金者が受け取る利息と、日本国債を中心とした安全資産の利回りの利ザヤをとることで収益を上げてきた。しかし、足元の10年国債の利回りは-0.139%とマイナス圏まで落ち込んでいる。

 低金利政策の長期化により、地銀における国債の保有残高は、マイナス金利導入当時と比較しておよそ半分となった。全国銀行協会の調査によれば、国債の保有高は前年比で18%減となっているが、それでも18兆9002億円が国債で運用されている。これは、地銀が保有する有価証券のうち、3割に近い水準だ。他の債券も含めると、有価証券に占める債券の割合は66.8%にものぼる。これは、都市銀行の53.7%と比較しても高い水準だ。

 低金利政策の長期化と、債券偏重の運用もあって、全国地方銀行協会が6月に公表した20年3月期の業績予想では、地銀の約7割が最終減益となる見通しを提示した。

 “素人レベル”の運用例も?

 マイナス金利の導入からちょうど5年が経過しているにもかかわらず、地銀の減益見通しに歯止めがかからない。その背景には、マイナス金利に対応できるような資産運用の高度化を十分に実施できていないことも大きい。

 運用部門・市場部門・投資銀行部門など、高度な資産運用機能を有するメガバンクなどと異なり、長年安全資産で運用を実施してきた地銀は、リスク性資産の運用にノウハウが少ない。そればかりか、金融庁のモニタリングでは、地銀の“素人レベル”といわれても仕方ないリスク運用の実態も明らかになった。

 今年3月に金融庁が公表した「金融システムの安定を目標とする検査・監督の考え方と進め方」には、その驚くべき実態が記載されている。同報告書では、金融庁がモニタリングした金融機関のうち、「株式の『ブル型ファンド』と『ベア型ファンド』を両方購入し、含み益となったファンドを売却して期間収益をかさ上げする一方、含み損の処理を先送りしている」金融機関が存在したと報告されている。

 これは、指数に連動して値上がりするブル型ファンドと、指数と反対の動きをするベア型ファンドに同じ金額を投資する、いわゆる両建て手法だ。片方は必ず含み益となるため、含み益となった分だけ決済すれば、実現益をカサ増しできるというカラクリだ。しかし、もう片方のファンドは当然ながら同じ額だけの含み損を抱えているため、トータルで見た損益は変わらない。原則として無意味な資産運用にあたる。

 この事例の元ネタは、同じく金融庁が公表した「平成28事務年度 金融レポート」の地銀に対するモニタリング結果だ。この資料には、ほかにも本業利益の悪化を穴埋めするために、含み益が出ているものを積極的に決済し、含み損が出ている商品の損切りをあと伸ばしするといった「利少損大」の運用事例なども報告されている。

 地銀の中には、目先の黒字を重視し、決算書を「作る」ことで低金利状況を耐えようと考えている金融機関もいるようだが、このような運用方針は相場急変に脆弱(ぜいじゃく)だ。

 資産運用の鉄則は、最悪のシナリオが実現しても破綻しない運用方針を立てることだ。しかし、現状の運用には「金利が上がるまで耐えられれば……」という地銀の本音も垣間見える。

 これは、90年代のバブル崩壊による金融機関の破綻を想起させる。「いずれ不動産相場は勢いを取り戻す」という希望的観測をもって、特段の対策を講じなかった金融機関はバブルの崩壊により淘汰(とうた)された。

 将来の金利について予測がつかない以上は、低金利の超長期化やマイナス金利の深掘りといったシナリオまで考慮する必要がある。地銀の目先の課題には、運用方式の高度化やビジネスモデル自体の転換に迫られているという側面があるだろう。

 巨象、SBI証券の思惑

 ここまで考えると、SBIグループが推進する地銀との提携は合理的とも思える。

 SBIグループが9月6日に公表したプレスリリースによれば、同社は島根銀行に対し計25億円、議決権ベースで株式の34%を取得する資本業務提携を行った。これは、同社の掲げる、「第4のメガバンク構想」を具現化するための布石と読み取れる。

  SBIグループが決算説明会資料で提示した「第4のメガバンク構想」では、地銀を中心とした地域金融機関の資産運用に課題がある点が言及されている。SBIグループは、自社の強みであるアセットマネジメント部門について、課題を抱える地銀の資産運用を受託することで、高度な運用環境を提供し収益につなげる狙いがある。

 SBIグループの狙いはそれだけにとどまらない。同社はネット証券では最大手であるものの、野村証券や大和証券に代表されるような対面型の実店舗をほとんど保有していない。

 昨今の金融業界ではIFA(独立系ファイナンシャル・アドバイザー)による対面チャネルでの顧客営業が台頭しているという現状がある。この点で、SBIグループは地方銀行が有する顧客基盤を獲得して、資産運用に関する営業を全国展開させるという狙いも読み取られる。

 地銀には、地元に根ざした良質な顧客基盤が現在も受け継がれている。このような顧客基盤を有効活用し、事業の多角化や収益構造の転換をSBIグループのような他企業と模索していけば、今後も地銀に光明は見えないと言い切ることはできないだろう。(ITmedia)

 筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

 中央大学法学部卒業後、Fintechベンチャーに入社し、グループ証券会社の設立を支援した。現在は法人向け事業コンサルティングを行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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