債券はバブルなのか? ストラテジストに聞いた「弾けたときに起こる事」

2019.12.30 07:05

 日経平均は年初来高値を付け、米S&P500指数も史上最高値を更新している。株価の好調さに「上がりすぎではないか」と不安を抱く人もいるようだが、市場関係者の間でもっと懸念される「上がりすぎ」の資産がある。債券だ。

 債券はいま「バブル」なのか?

 債券の価格は、基本的には利回りによって変動する。利回りが下がれば価格が上昇し、利回りが上がれば価格が下落する。そしてこの利回りが、ここ10年下がり続けているのだ。つまり債券価格は上がり続けていることになる。

 債券の代表格が、国が発行する国債だ。この国債の利回りを基準(リスクフリーレート)に、発行元の破綻リスクなどを加えて社債などの利回りも決まる。国債利回りが下がり続けているということは、さまざまな債券の利回りも低下しているということだ。

 ではなぜここまで利回りは低下したのだろうか? 国債の中でも債券価格の指標として使われることの多い10年債国債の価格の決まり方を、アクサ・インベストメント・マネージャーズの債券ストラテジスト、木村龍太郎氏はこう話す。

 「教科書的にいうと、10年もの国債の利回りは、10年間について、市場参加者が予想する中央銀行の予想金利で算出される。10年の国債に投資した場合と、短期金利の商品に再投資を繰り返した利回りは同じになる」

 そして短期金利は中央銀行が決める政策金利との連動性が高い。先進国では、政策金利は安定的な経済成長と緩やかな物価上昇を目標として定めている。経済を、加熱もさせず失速もさせないところに設定するのが基本だ。例えば米国債の利回りを見ると、長期的にはGDPの伸び率を若干下回る数値で推移してきた。

 ところが、GDPに対して現在の利回りは低い。「日本、米国ともに経済環境が減速しているとはいえ、成長率でみれば堅調さを保っている。対して、10年もの国債の利回りは0%を下回る若干マイナス、米国も2%に届かない。経済成長のものさしからいうと低いところにとどまっている」(木村氏)

 つまり歴史的に想定されるよりも利回りが低く、つまり債券価格が上昇してしまっている。これが「債券バブル」ではないかといわれる理由だ。

 債券バブルというより金融緩和バブル?

 こうしたことが起きる理由はなにか。過去の平成バブルやITバブル、仮想通貨バブルと、今回の債券バブルとの間には大きな違いがある。過去が投機的な、つまり値段が上がるから買うという動きの結果として起こったのに対し、今回は中央銀行の低金利政策によってもたらされた。

 中央銀行は、金融緩和の一環として量的緩和策で資金を供給して、信用不安やデフレリスクを食い止めようとした。それによって金融不安が沈静化したあとも、まだ金融緩和環境が続いてしまっている。巨額の資金が金融市場に供給されたが、それが高い利回りを求めて債券市場へと流れ込んだ。流入したことで債券利回りが押し下げられていくという状況が生まれたわけだ。

 この金融緩和はまだ続くという見方が多い。「19年、各中央銀行はさらに金融緩和方向に舵(かじ)を切った。米FRBは17~18年は利上げをして金利正常化を進めていたが、貿易摩擦などによる経済の不透明感から、19年7月から3回利下げをした。ECBも9月に政策金利のマイナス幅をさらに拡大。日銀も、引き続きマイナス金利の拡大を予想する向きもある」(木村氏)

 カネ余りの状況の中、将来の利下げを見越して過剰な資金が債券に流入。さらに利回りを押し下げていく可能性もある。「債券バブルというよりも、金融緩和バブル、過剰流動バブルではないか」と木村氏は指摘する。

 逆回転のシナリオ1:景気好調になって利上げ

 ではこの債券バブルが弾けると何がおきるのか。木村氏は2つの可能性があると話す。

 1つは、景気好調になったり、資産価格に過熱感が出たりしたときだ。こうなると中央銀行は金融緩和政策を終了して、利上げする正常化路線に踏み出す。この時は、国債を含め債券利回りが大きく上昇することになる。

 ただし木村氏はこの可能性は低いと見る。低金利の背景には政治があるからだ。「金融緩和政策が大きく修正される場合、国債利回りが上がるだけでなく、株式や不動産にも大きな調整が入る。米国でも、トランプ大統領による政治的なプレッシャーが、FRBの3回の利下げの背景にあると見る向きもある。日本でも中央銀行は、政権との間で協力してやっていっている。景気は支持率のバロメータになっているからだ」

 逆回転のシナリオ2:経済悪化で信用リスクが高まる

 2つ目のシナリオは経済が大きく悪化した場合だ。返済ができなくなるリスクがないと想定される日米国債とは違い、社債や新興国の国債には返済ができなくなる信用リスクがある。発行体の債務返済能力に疑問が生じると債券価格にはダメージだ。

 経済環境が大きく悪化し、企業の業績悪化や資源価格の低下が起きると、これまで投資されてきた資金の引き上げが起こる。引き上げられると利回りが上がり、そのことで債務の借り換えコストが高まって、さらに経営を圧迫する。これが連鎖的に悪化していく可能性がある。

 そうでなくとも、過剰供給された資金が流入したのは高い利回りが見込める社債や新興国の債券だ。資金の流入によって、国債に対する上乗せ金利を指すスプレッドは押し下げられた。

 格付けがBBBで投資適格の下のほうのイタリアでも、現在の10年債利回りは1.4%程度。投資非適格のBBであるギリシアでも1.4%まで下がっている。共通通貨のユーロ圏にあるとはいっても「格付けから考えると利回り水準がおかしい」と木村氏。

 これは社債でも同様だ。「ハイイールド債と呼ばれるような社債もスプレッドが低下している。ただし景気がよい状況でカネ余りなら、企業側も資金繰りに影響しない。ならば少しでもスプレッドが取れるものに投資したほうが合理的だ。事実、ハイイールド債のほうが投資適格債よりもリターンは良好だった。ただし今後続くかどうかは経済状況による」

 市場関係者の中には、債券の中でも特にハイイールド債について警鐘を鳴らす人もいる。リーマンショックの際には、米ハイイールド債のスプレッドは15%以上に跳ね上がった。

 「ある業種の中で、1社をきっかけにすべての銘柄のスプレッド見直しが起きるということは過去にもあった。リーマンショックの際には住宅業がそうだったし、原油価格が急落したときには、シェールオイル企業などのハイイールド社債の利回りが極めて大きく上昇した」(木村氏)

 債券価格がさらに上がり続けるには、金利がさらに下がり続けるか、格付けに見合わないほどスプレッドが低下する必要がある。ただし、特に日欧では金利はマイナス圏にあり、その副作用はたびたび指摘されている。また、実態からかいりしたスプレッドは、何かのきっかけで急上昇する可能性もある。

 昨今は、債券部分にレバレッジをかけて運用するバランスファンドも人気となっている。株式とはまた違った債券価格のトレンドにも注意が必要だ。(ITmedia)

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