【視点】ベンチャーの育成は「父親のつもりで見守る支援者」が不可欠

2020.1.21 10:35

 創業間もないベンチャー企業が育ちにくいといわれる日本の企業風土。経済活性化には産業の新陳代謝を起こすベンチャーが数多く生まれることが不可欠だが、独創的な技術やアイデアで起業したにもかかわらず経営基盤が脆弱(ぜいじゃく)なため資金調達や販路開拓、ガバナンス(企業統治)などでつまずいてしまうところは少なくない。こうした中、手を差しのべる支援者が日本にも出てくるようになった。(産経新聞経済本部編集委員・松岡健夫)

 個人がインターネットを通じ少額でも非上場企業の株式を取得できる株式投資型クラウドファンディング(CF)を活用する「プチエンゼル」がその一人だ。

 「出資すると代表者に直接会えるし、この先の商品も見られる。リターン(投資資金の回収)も気になるが、資金以外でも人脈の紹介などで力になりたい。(出資先企業との)一体感が魅力」。こう語るのは、日本クラウドキャピタル(JCC)が1月14日に開催したセミナー「“ネットで”『エンジェル投資』徹底解剖」に登壇したユーザー代表だ。さらに「出資会社が全て成功するわけではない。一緒に成長するという心構えが大事」とも話した。

 JCCの柴原祐喜代表取締役CEO(最高経営責任者)は「頑張るチャレンジャーに資金調達の機会を与える株式投資型CFはみんなでベンチャーを応援する枠組み。投資家と経営者の距離を縮めるイベント、セミナーを開催し、企業成長の環境を整備する」と強調。その上で「投資の醍醐味(だいごみ)はベンチャー経営者の顔を見ながら成長を楽しめること」と会場に集まったプチエンゼルだけでなく、その候補生に仲間入りを呼びかけた。

 JCCがサービスを始めてから3年弱。2019年11月時点で約2万人のプチエンゼルが登録、71件のプロジェクトが成約し、累計24億5000万円の資金が個人からベンチャーに渡った。支持されているのは「(JCCが運営する)ファンディーノで厳しくスクリーニング(審査を通過)しているので安心感がある上、投資額が1社あたり年間50万円と少額だから」(ファンディーノ登録者)といわれる。

 投資目的はIPO(新規株式公開)やM&A(企業の合併・買収)などによって売却益を得ることだが、「投資資金が戻ってこないリスクも承知している。だが、子育てと同じで、初期段階から成長を見守れるのがいい」(別の登録者)と割り切っている一面もある。

 知的財産戦略やガバナンスなど対応が後手に回りがちな法的リスクの面倒を無償で見てくれる弁護士事務所も現れた。明倫国際法律事務所(福岡市中央区)は18年6月からベンチャー支援に乗り出した。弁護士らしく社会的意義や経営者の資質(熱意)、事業性を基準に支援先を選定し、標準的な顧問契約を通常6カ月間無料で提供している。

 田中雅敏代表は「フルコースの支援は手間がかかるが、これで収益を上げるつもりはない。弁護士の社会的使命」と断言。専門知識を社会貢献に生かすプロボノ活動と位置付ける。

 支援を受けている九州大発IT医療ベンチャーのメドメイン(同)の飯塚統代表取締役CEOは「創業メンバーは医・工学部生4人で、法務も税務も人事・労務も分からなかったので助かった」と話す。田中氏と出会ってからとんとん拍子で成長、「上場もそんなに先ではない。ユニコーン(企業価値10億ドル以上)になれる素質はある」と語る田中氏の顔は父親そのものだ。

 ベンチャー立ち上げ支援への理解者は着実に増えている。しかし無償で相談に乗る弁護士は多いといえないし、株式投資型CFへの一般の認知度も決して高くなく、投資に興味を持つ人が集まる“村”の世界から抜け出していない。

 セミナー参加者の一人は「メディアへの露出が不可欠」と訴えた。ベンチャーに失敗はつきものであり、子供の成長を見守る父親のつもりで日本経済を活性化に導く可能性を踏めたベンチャーを応援していく必要がある。それが日本経済のボトムアップにつながるはずだ。

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