3メガ銀が市場圧力で転換 石炭火力の融資停止、国際的にはなお遅れ

2020.7.7 07:02

 みずほフィナンシャルグループ(FG)と三井住友フィナンシャルグループ(FG)が相次いで、石炭火力発電所の新設事業への融資停止を発表し、昨年、停止を決めていた三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)と足並みをそろえた。

 投資家の意識高まる

 3メガバンクの動きの背景にあるのは、投資家の問題意識だ。地球環境問題への適切・迅速な対応が企業の優先的な経営課題になってきたとして具体的な取り組みを求める姿勢を強めている。

 こうした市場からの圧力が方向転換を促した。しかし3メガバンクの石炭火力事業への融資残高は、環境団体の調査によると世界でも突出して高く、環境団体「気候ネットワーク」の平田仁子理事は「3行の取り組みの方向性は良いが国際的にみるとなお遅れており、強化する必要がある」と指摘する。

 環境問題に取り組む非政府組織(NGO)の「350ジャパン」などの石炭火力をめぐる調査によると、2017年1月から19年9月末までに、世界で最も多額の融資をしたのは、みずほFGで168億ドル(約1兆8000億円)、2位は三菱UFJFGで146億ドル、3位は三井住友FGで79億ドルだった。

 みずほFGは、巨額融資や社債の引き受けなどで電力会社と緊密な関係を続け、産業金融を通じて高度成長を支えてきた旧日本興業銀行など3行が統合して設立されたメガバンクだ。こうした経緯も背景に、環境問題に対する消極的な姿勢が指摘されていたが、4月に改定した基本方針は関係者の予想を上回る踏み込んだ内容だった。

 新設石炭火力への融資は「実行しない」とした上で、2019年度末で約3000億円に上る石炭火力に対する既存の融資残高を30年度までに半減し、50年度にはゼロにすると打ち出した。三菱UFJFG、三井住友FGとも「原則、実行しない」と、一定の留保を付けている上、既存融資残高の削減数値については特に言及していない。

 消極姿勢から転じた理由について、みずほFGの森西徹サステナビリティ推進室長は「顧客、投資家、政府、NGOなどからの意見を参考に検討した結果、みずほとしての姿勢を打ち出した方がいいということになった」と説明している。

 一方で、市場関係者がみずほの対応強化の背景として挙げるのは、気候変動問題への取り組み強化を求めた気候ネットワークの株主提案だ。同ネットワークは昨年、みずほFGの株主となり、今年3月に「パリ協定の目標と整合的な経営戦略を策定し、毎年開示すること」を提案。欧州の機関投資家がこの提案に賛同すると表明した。

 流れ変えたGS

 金融機関の環境問題に向けた取り組みは、英スタンダード・チャータード銀行など欧州勢がリードしてきたが、パリ協定から離脱したトランプ政権の米国勢がこれに追随せず、世界的には大きなうねりにはならなかった。だが19年末に金融大手ゴールドマン・サックスが石炭関連事業への融資抑制を打ち出し、今年2月には同JPモルガン・チェースが融資停止を発表し「流れが変わった」(大手銀幹部)。

 欧米の主要金融機関が融資先の環境問題に取り組む姿勢を厳しく評価し始めたのは、経営に直結する重要な問題が明確になったからだ。

 風力などの再生可能エネルギーが発展を遂げ価格低下が進めば、巨額のコストをかけた石炭火力発電は競争力を失う。そうなれば、融資の返済能力に疑問符が付く。さらに石炭火力発電の運営者の債務者区分が格下げされれば、引当金の計上が必要になりその分、利益が圧迫される。

 金融機関の「脱炭素化」は、単に気候変動問題に対する立場の違いというものではなく、いかにリスクを低減・管理していくかというビジネスとしての長期戦略といっていいだろう。

 日本の3メガバンクは新規融資からは手を引くが、既存発電所の修復などへの融資には道を開けているほか、事業者への出資という形での資金供給もあり得る。みずほFGの森西室長は今後の取り組みについて「日本がどうだということではなく、グローバルな動きを意識していきたい」と話している。

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