【変貌する電機 2020年代の行方】東芝・小林前社外取締役「技術を中心に付加価値を社会に提供するリーダーに」

2020.9.18 07:00

 東芝の社外取締役と取締役会議長を7月末で退任した小林喜光前経済同友会代表幹事(三菱ケミカルホールディングス会長)がフジサンケイビジネスアイのインタビューに応じた。2015年の不正会計問題の発覚を受けて、社外取締役に就任し、経営再建のキーマンとして東芝を支えてきた。小林氏は車谷暢昭社長について「(改革の)スピード感はピカイチ」と評価。今後の東芝について「技術を中心に付加価値を社会に提供するリーディングカンパニーであってほしい」と期待した。(聞き手 黄金崎元)

 --社外取締役を退任したが、率直な気持ちは

 「正直、よくここまで来たと思う。米原発子会社ウエスチングハウス(WH)の巨額損失、米半導体会社ウエスタンデジタル(WD)との事業売却をめぐる争い、PwCあらた監査法人との対立による上場廃止危機を『3大Wの悲劇』と呼んでいるが、何とかくぐり抜けた。第三者割当増資で物言う株主が増えたが、今は欧米の金融資本主義の中で、もがき苦しみながら、一番先頭を走っている会社という印象だ」

 --この5年で一番印象に残っていることは

 「WHが米連邦破産法第11条(チャプター11)を適用申請して海外の原発建設事業から撤退したことだ。数兆円レベルの隠れた負債があり、チャプター11を適用申請しなければ、大変なことになっていた。結局、不正会計につながったのは原発事業が大きかった。メモリー事業も大きな投資が必要で、それで他の分野が疲弊していた。こういう大事件がなければ、政府絡みの原発や投資が必要な半導体は切れなかった」

 --他事業も切り離し、社会インフラを中心とした会社になった

 「キャッシュがなくなり、東芝メディカルシステムズを売却せざるを得なくなった。原発と半導体、医療機器の3つの事業を切り離し、現在のインフラサービス事業に転換できた。テレビやパソコンも売却した。大手術を通り越して、もともとあった事業はどこへ行ったのかというぐらい変革した。普通は1回くらい何かあって、首の皮1枚つながったというが、これだけ危機を重ねたのは、そうそうない。よく短期間で1つ1つ解決したと思う」

 --火中の栗を拾う形で、経営再建に取り組んだ

 「私の大学時代のクラスに学生は50人いたが、優秀な4人が東芝に入社した。1人はCTO(最高技術責任者)、1人は半導体研究所の所長になった。当時から東芝は日本のテクノロジーの原点だった。ベンチャー精神が豊かな会社がどうして不正会計でおかしくなったのかと気になっていた。そんな時に足の悪い(相談役だった)西室泰三さんが『この会社を救ってほしい』と尋ねてきてくれた。西室さんとは同郷で、同級生と一緒によく食事をして財界活動を教えてもらった。経済同友会の代表幹事になったばかりで一度は断ったが、同友会は行動する団体でもあり、日本を代表する会社が悪くなるのを放っておけなかった。一部では反対もあったが、受けることにした」

 --再建中は、東芝は潰せない会社と何度も話していた

 「東芝は量子暗号やバイオサイエンス、水素システムなど多くの優れた技術を持っている。注力しているデジタルや環境エネルギー、ヘルスケアも日本にとってコアのテクノロジーだ。会社更生法や民事再生法が適用されると、技術が分散してしまう。それは日本の大変な損失になると思っていた」

 --指名委員会のメンバーとして、3人の社長を選んだ

 「それぞれの局面でエネルギーのかけ方が違っていた。室町正志さんは不正会計で混乱する会社の状況を正確に把握する役割を担った。綱川智さんは3大Wの悲劇や上場廃止問題など数々の困難を切り抜けた。簡単に結論を出さず、最後まで熟考する良い面があった。車谷暢昭さんは同友会の副代表幹事で気心が知れていた。株主がアクティブなので、金融系でマーケットを熟知している人が良いと思った」

 --車谷社長の評価は

 「18年からCEO(最高経営責任者)となり、すぐに『ネクストプラン』を作り、果敢に株主と対話しながら経営を行っている。プロパーの考え方を変えながら、営業利益率5%以下の事業はやめるなど社内で明確な方針を打ち出している。スピード感はピカイチだ。今後はマーケットと深く会話しながら、新たな事業を創出するのが最大の課題だ。株主総会の選任案は反対が多かったが、それは株主の論理がある。稼ぐことはまだ道半ばだが、頑張っている」

 --この10年は電機業界を取り巻く環境の変化が激しかった

 「日本のエレクトロニクス産業は20年前に韓国や台湾、中国メーカーとの価格競争に大惨敗を喫した。今はモノとコトをどうハイブリッドするかというところに付加価値を見つけないといけない時代になった。そうしている間に米国の『GAFA』が覇権を握り、コロナが発生してから株価が上がり、米マイクロソフトを含めた5社の時価総額は日本の1部上場会社の時価総額を足しても勝てていない。データを集めた一握りのプラットフォーマーに圧倒され、今はDX(デジタルトランスフォーメーション)と言っている時代ではなく、データエキセントリックの時代になっている」

 --今後10年はどういう世界になるとみているか。東芝を含め、電機業界がこれから生き残るには何が必要か

 「あと5年もすれば、自動車をソフトウエアで動かすモビリティーの時代になる。第4次産業革命は完全にデジタルの時代で、AI(人工知能)や機械学習の活用で人間の脳を外部化した。量子コンピューターの時代になると、さらに人間よりも処理能力が速くなる。GAFAが第1波で次はリアルとバーチャルをハイブリッド化した時代が到来する。東芝はそこを狙う。日本企業はリアルの良いデータを多く持っている。それをバーチャルとどう組み合わせ、プラットフォームを作っていくかが今後の電機メーカーが一番進むべき道だと思う。変化が速く、これほど経営者の手腕が問われる厳しい時代はない」

 --これから東芝はどういう会社であってほしいか

 「東芝はベンチャー精神を持ち、テクノロジーとサイエンスをベースにした会社だ。技術を中心に付加価値を社会に提供するリーディングカンパニーであってほしい。もうけを出しながら、心にビジョンやロマンを持ち、技術屋を大切にした会社であってほしい」

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