米中の二兎を追っていたサムスンが「脱中国」 ファーウェイの代役狙う

2020.10.12 06:40

 【ビジネス読解】

 米中の二兎を追う戦略だった韓国サムスン電子が、「脱中国」にかじを切り始めた。スマートフォンやパソコンの中国生産を取りやめたのに続き、11月末に中国でのテレビ生産から撤退することを決めた。販売不振や人件費高騰が理由だが、中国と対立する米国を意識した動きとも受け取れる。米政府が9月15日に制裁を強化した華為技術(ファーウェイ)への部品供給も中止。サムスンの中国離れは世界市場での飛躍の足掛かりにもなる。

 スマホに続きテレビ

 サムスンが稼働を停止するのは天津市にあるテレビ工場。1990年代初頭に進出し、サムスンの中国国内唯一のテレビ工場として主に同国向けに30年近く生産を続けてきた。年間生産量は公開していないが、中国メーカーの台頭もあって規模を段階的に縮小しており、そう多くないとみられる。サムスンは天津工場停止について「世界的な生産体制の運営効率を高めるため」と説明。生産機能はベトナムやメキシコ、ハンガリー、エジプトなどのテレビ工場に移管する。

 韓国紙、中央日報(日本語電子版)によれば、サムスンが中国でのテレビ生産から撤退するのは、海信集団(ハイセンス)や創維集団(スカイワース)など中国メーカーの低価格攻勢のためだ。販売価格がサムスンの半分にも満たないテレビも出回っているという。

 英市場調査会社のオムディアによると、サムスンの今年上期の中国テレビ市場シェアは4.8%と8位。1~7位は中国メーカーで、存在感は薄い。

 人件費の上昇も響いた。工場のある天津市は上海市とともに中国国内で最低賃金が最も高い地域の一つに挙げられる。販売低迷と人件費がネックとなって中国市場で立ち行かなくなるのはシェアが0%台にまで低下したスマホと同じだ。

 そのスマホも2019年末までに天津市や、広東省恵州市の工場を閉鎖した。今年7月には江蘇省蘇州市のパソコン工場の生産を停止すると発表。最近ではディスプレー子会社が、蘇州市の液晶パネル生産会社を華星光電技術(CSOT)に売却することを決めた。

 米中と適度な距離感

 生産撤退は通常、企業イメージの悪化を招きかねないとされる。それにもかかわらず、サムスンが進出より決断が難しい撤退を次々と決めていることに関し、韓国メディアは「サムスンの『脱中国』が加速しているという分析が出ている」と報じた。また、「中国から手を引いている」とも伝えた。

 インターネット上では、特にテレビの生産撤退について「単に価格競争に負けただけ」といったコメントが散見される一方、「世界企業として米国を中心とした民主主義国での企業活動を念頭に行動している」という米中対立を意識したような見方もあった。

 米中対立では15日、米商務省が次世代産業の中核となるハイテク分野の主導権を中国に握らせまいとして、ファーウェイに課す規制を強化。「産業のコメ」ともいわれる重要電子部品、半導体の供給を遮断した。当初は米企業に対して取引を禁じたが、米国以外の企業から供給を受けることができたため、今回、米国の製造装置や設計ソフトを使っていれば、米国以外の企業が作った半導体であってもファーウェイに供給するのを禁じた。

 これを受け、サムスンはファーウェイへの半導体メモリーの供給を中止。米政府は中国封じ込めに勢いをつけており、同盟国企業であるサムスンが米国に恭順の姿勢を示すのは当然ともいえる。たとえ中国市場で稼ぎを失っても、サムスンには世界市場で取り返す余地がある。米政府が各国にファーウェイ製品の排除を要請しているためだ。

 サムスンは米携帯通信最大手のベライゾン・コミュニケーションズに次世代規格の第5世代(5G)移動通信システム用の基地局を供給することを7日発表した。韓国紙、ハンギョレ(日本語電子版)は「世界最大のモバイル市場である米国で認められた」と伝えた。5Gでは英国、豪州などが通信基地局で世界首位のファーウェイの排除を決めており、米国での実績を足掛かりに5位サムスンが各国の市場でファーウェイの代役になるとの見方も浮上する。5Gでの地位向上は他製品への相乗効果を呼ぶ可能性も高い。

 米中両国と適度な距離感を保つ“二股”の戦略をとってきたサムスン。米政府の意向をくんだともいえる変容は、世界市場で今後大きくなるファーウェイの空席を埋める有利な立場をもたらすことになりそうだ。(経済本部 佐藤克史)

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