【高論卓説】早期実現望む「観光MaaS」 交通インフラ拡充、近隣へ分散後押し

2020.10.28 08:45

 前回のコラム(9月16日付)では、新型コロナウイルス禍で再びクローズアップされると考えられる京都や鎌倉のオーバーツーリズム(観光公害)問題を取り上げた。解消するための戦略論として、(1)データに基づく実態調査の必要性(2)観光客の客単価の増額(3)観光の連続性を担保した観光客の分散が必要-などと提案した。(吉田就彦)

 特に第3の戦略に必須なのが観光MaaSである。MaaS(Mobility as a Service)は、未来の都市計画では欠かせない議論となってきている。そんなMaaSに地域の観光を連携させたスキームが観光MaaSだ。

 具体的に、鎌倉のケースで考えてみよう。年間2000万人の観光客を鎌倉から効率的に分散させて、新たな観光客受け入れの余地を残すためにも、観光MaaS戦略は欠かせない。2022年にはNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の放送を控えていることから急ぐ必要もある。

 まず、近隣の観光地へ分散させるには、その可能性を広げるターゲットをディスティネーション化させなければならない。大観光地・江の島の先にはめぼしい観光スポットが少ないため、隣接している東地区の三浦半島がメインターゲットになるだろう。三浦半島には運慶作仏像など歴史文化財も多く、海・山・川のレジャー資源も豊富で、食の豊かさもあるからだ。三浦半島を対象と考えたとき、その観光MaaS戦略が必要である。

 第1には既存の交通インフラの拡充と整備だ。鎌倉から三浦半島に人の流れを確保するためには、現状ではJR東日本の横須賀線と京急バスが中心となる。しかし、観光スポットへのアクセスが煩雑で、しかも広域仕様でないため、バスを乗り継いでいかなければならない。

 例えば鎌倉駅から三浦半島の西海岸側を、逗子、葉山と巡り、マグロで有名な三崎の城ヶ島までというようなバスルートはない。鎌倉駅から三浦半島に続くJR東日本の各駅と各観光地との接続も良好とはいえない。既存の交通インフラを観光型に変えていく必要がある。

 第2の戦略は海路である。鎌倉時代に三浦半島を席巻していた三浦一族は水軍を持っていた。それにちなみ、江の島から三崎港を回る西航路と三崎港から東の軍港ツアーを行う横須賀までの東航路を三浦水軍航路と名付けるのも一興だ。現在では西のマリーナ間での遊覧クルーズはあるものの全てがつながっていなく、移動をにらんだ観光客の受け入れ手段とはなっていない。軍港ツアーなどを行う関係者との連携と一気通貫した航路設置が期待される。

 第3はサイクルツーリズムへの対応である。三浦半島ではサイクルツーリズムが提唱されており、各自治体ではレンタサイクルの設置などが進んでいるが、鎌倉オーバーツーリズムを解消するような広域の連携がない。鎌倉で借りたレンタサイクルを葉山で乗り捨てるようなサービスにはなっていない。道路の整備とともに休憩所・案内所の設置など移動サービスの拡充が欠かせない。

 これらの戦略を実現し、足りないところは新たな新モビリティーシステムを導入することで、鎌倉のオーバーツーリズムを解消し、宿泊を伴う広域の観光により地域で稼げる観光が実現する。

 既存の交通インフラに新たなMaaSの取り組みを付加する「観光型ハイブリッドMaaS」が、全国で自治体や地元企業との連携で早期実現することが期待される。

【プロフィル】吉田就彦 よしだ・なりひこ ヒットコンテンツ研究所社長。1979年ポニーキャニオン入社。音楽、映像などの制作、宣伝業務に20年間従事する。同社での最後の仕事は、国民的大ヒットとなった「だんご3兄弟」。退職後、ネットベンチャーの経営を経て、現在はデジタル事業戦略コンサルティングを行っている傍ら、ASEANにHEROビジネスを展開中。富山県出身。

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