劣悪な衛生状態、暑さで倒れる従業員… 「ミキハウス」子会社がミャンマーに委託した工場の実態

 
日本の企業が委託したミャンマーの工場内の様子(エナジェティックグリーン提供)

 雨が降ると浸水し、食堂には大量の鳩が入って衛生状態は最悪、暑さで従業員は倒れた…。「ミキハウス」や「ワコール」などブランドの関連会社が、ミャンマーに委託した工場の劣悪な実態が明らかになった。調査団体は「氷山の一角に過ぎない」としており、日本の企業が責任を持つよう訴えている。(社会部 天野健作)

最低賃金ぎりぎり

 調査したのは国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」。2016年8月から、ミャンマーの現地NGOと共同で、労働者へのインタビュー調査も含めて結果を公表した。

 ミャンマーにあるのは、子供服ブランド「ミキハウス」のグループ会社「ミキハウストレード」と、下着などの製造販売を行う「ワコール」の子会社「ルシアン」が委託する工場。

 調査によると、ミキハウスの工場では、従業員が約600人働いており、現地法で週48時間以上の労働はしてはならないとされているが、違法な残業が横行。深夜や日曜出勤を強いられることもあり、従わない場合、「管理職から口頭でののしられることもあった」という。

 基本給は時給450チャット(約40円)で、現地の最低賃金法と同額となっていた。ミャンマーは物価が高騰しており、「生活を維持しうる賃金にほど遠い」ばかりか、給与の支払いが遅延したこともある。

 労働環境も劣悪で、最高気温が40度を超えるにもかかわらず、工場に冷房機器がない。暑さで倒れる従業員も出ており、工場内の病院には応急処置のための医療器具や薬も用意されておらず、従業員が共同でそれらを買っているという。

トイレにも満足に行けず

 ルシアンの工場では、約500人以上の従業員が働く。調査では、雨が降ると食堂が浸水してしまい、晴れた日には鳩がたくさん入ってきて、衛生状態が劣悪な状況にあるという。

 工場には水筒を持っていくことが許されておらず、工場内の飲料水タンクの水が衛生的でないため、腹痛を起こす人もいた。トイレへ行くにもカードを持って利用しなければならないが、2枚しかなく、満足に行くこともできない。

 トイレを含めて工場の至る所に防犯カメラが設置されており、監視状況が厳しい。この工場でもミキハウスと同様、従業員から最低賃金以下の賃金しか支払われていないとの訴えがあった。

「心配かけおわびします」

 これらの訴えに対し、企業側はどう答えたか。

 調査報告を受けて、ミキハウストレードは1月16日に、ホームページで「指摘を大変重く受け止める。関係者の皆様には、ご迷惑とご心配をおかけしておりますことを心よりおわび申し上げます」とする見解を発表した。

 同時に、第三者委員会による調査報告書を公表。それによると、深夜残業があったことや、日曜日に勤務したにもかかわらず、記録が修正液で訂正されていたことなどを認めた。

 ルシアンも1月25日、ホームページで「指摘を真摯(しんし)に受け止め、直ちに事実関係の調査を実施した」とする文書を公表。食堂施設に1・3メートルの壁を設けて施設の修繕を図ったことや、トイレも新たに増設し、トイレに行きにくい状態の改善を図ることを宣言した。

 調査に携わった金昌浩弁護士は「今回の問題は氷山の一角に過ぎない。ミャンマーには同様に、ほかに日本のアパレル企業が進出している。他の企業もビジネスと人権の問題や、CSR(企業の社会的責任)に積極的に取り組んでほしい」と話していた。