大ヒットなのに受賞逃す「君の名は。」… アカデミー会員の“ジブリ信奉”も一因?
日本映画歴代2位の興行収入240億円を突破し、中国、韓国などでも大ヒットしているアニメ映画「君の名は。」(新海誠監督)。しかし、1月に発表された映画専門誌「キネマ旬報」のベスト・テンでは圏外、米アカデミー賞長編アニメ賞ではノミネートもされず、アニメ作品のアカデミー賞といわれる米アニー賞でも受賞を逃した。興行成績と評価の間に表れた“落差”。そこにはどのような理由があるのだろう。
選考委員の“使命感”
キネマ旬報のベスト・テンは、審査委員がそれぞれ1~10位の作品を挙げる。1位は10点、2位は9点と順位を点数化し、その合計点で順位が決まる。
元編集長で現在は編集プロダクション、アヴァンティ・プラス代表取締役の関口裕子さんによると同誌のベスト・テンは「大勢の審査員に低い順位で投票されるより、少数でも1人1人に高い順位で投じられたほうが上位に入りやすい」傾向がある。
今回はどうだったのか。2月下旬号が投票の詳細を掲載している。「君の名は。」は選考委員64人のうち、14人から78点を集めた。その結果、「団地」(阪本順治監督)と並ぶ13位だった。ベスト・テン入りにあと一息とはいえ、興行成績との乖離(かいり)が大きかったことに変わりはない。
関口さんが解説する。
「ベスト・テンの選考委員は、映画評論家やジャーナリストなど。日頃多数の映画を見ており、『一般の人が知らない作品を見つけてくるのが自分の使命』と考える人も多い。このため、大ヒットしたエンターテインメント系の王道作品は上位に入りにくい傾向が出るのです」
アカデミー会員に“ジブリ信奉”?
一方、米アカデミー賞では、なぜノミネートされなかったのか。
そもそも、これまで同賞の長編アニメ賞には、日本からはスタジオジブリ作品しかノミネートされたことがない。今回も、「君の名は。」は審査対象にはなったものの、ノミネート作品に選ばれたのは、ジブリがオランダ出身のマイケル・デュドク・ドゥ・ビット監督と組んだ「レッドタートル ある島の物語」だった。
アニメーション研究家の氷川竜介さんは、「昨年もエンターテインメント色の強い『バケモノの子』(細田守監督)がノミネートされるものと思っていたら、(児童文学が原作の)ジブリ作品『思い出のマーニー』(米林宏昌監督)が選ばれた。アカデミーの会員側に“ジブリ信奉”のようなものがあるのかもしれない」と話す。
日米の差
氷川さんは「君の名は。」を「究極の恋愛物語。エンタメの王道を行きつつ、若者に新鮮な世界観と希望を与えた」と高く評価。しかし、「お国柄によって受け止め方に差が出ている可能性はある」とする。
「日本の観客は主人公たちの感情を重視して違和感なく見るが、欧米の理詰めの見方だと、なぜ瀧が三葉を好きになったか? なぜ大災害が周期的に起きるのか? について、説明不足に感じるようだ」
また、米国では、アニメが産業・芸術として確立しており、伝統や整合性を重視する傾向がある。氷川さんは「日本のアニメは、常に先人が作っていないものに挑んできた。なかなか両者は合致しないのかもしれない」と分析する。
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「君の名は。」 昨年8月に公開。興行収入は「もののけ姫」「ハウルの動く城」を抜き、日本映画歴代2位(洋画を含めると4位。首位は「千と千尋の神隠し」)。千年ぶりに彗星(すいせい)が地球に近づく中、地方に暮らす女子高生と東京の男子高校生の体が入れ替わる不思議な体験をするファンタジー作品。
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キネマ旬報ベスト・テン 1919年創刊の歴史ある映画雑誌「キネマ旬報」が、毎年選定している。第1回は25年に、前年度の外国映画のみを対象に発表された。26年度からは日本映画も対象となり、現在では邦画、洋画、文化映画の3部門で実施。ベスト・テン以外にも監督賞や主演男女優賞などの個人賞、読者賞などを選出している。
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