最大野党「解党」で総選挙か 混迷深めるカンボジア政治

 
カンボジアのフン・セン首相(AP)

 カンボジアの最高裁判所で16日、同国の最大野党・カンボジア救国党の解党をめぐる審判が開かれる。カンボジアの司法当局は9月3日、救国党党首のケム・ソカー氏を、「米国と共謀して国家転覆を企てた」として逮捕した。その後、カンボジア内務省は政党法に基づき、救国党の解党を裁判所に申し立てた。早ければ16日にも最大野党の解党が言い渡されるとの見通しもある。2018年7月の総選挙を前に、カンボジア政治は混迷を深めている。

 ◆与党側が焦り

 前回13年の総選挙では、国民議会の定数123のうち、与党・カンボジア人民党が68議席、野党・救国党が55議席を獲得した。野党が予想を上回る議席を獲得し、長期政権を担うフン・セン首相の足元を揺るがす結果となった。また、今年6月に実施された地方一斉選挙の得票率も、与党約50.8%、野党43.8%と競り合い、野党支持の熱は冷めていないことを示した。

 与党側が焦りを深めるなか、司法当局は9月3日の深夜、ケム・ソカー党首の自宅に踏み込み、同氏を突然逮捕した。現地紙の報道によると、党首がオーストラリアのテレビ番組に出演し「カンボジアに変革をもたらすため、米国政府が私を支援してくれている」と語った動画をフェイスブックに投稿した直後だったという。

 この逮捕を受け、カンボジア内務省は10月、最高裁判所に野党・救国党の解党を申し立てた。与党側は今年2月、政党法を「党首が訴追された場合、その政党を解党することができる」と改正。また、「国家転覆を企てたり、その計画を支持したりした政党は政治活動を5年間禁止する」との条項も追加した。

 与党側は、救国党が解党された場合、国民議会の野党55議席を、13年の選挙に参加した他党に振り分けるとしている。「複数政党制」は維持されることになるが、人民党と救国党以外の党の得票率は、合わせても1割に満たない。形ばかりの複数政党制となるのは明らかだ。

 ソカー党首逮捕と前後して、フン・セン政権はカンボジア国内の親米勢力への抑圧を強めてきた。政権は、9月までに、米国政府系非政府組織(NGO)やラジオ放送を撤退や閉鎖に追い込んだ。

 また、米誌ニューズウィークの東京支局長も務めたバーナード・クリッシャー氏が創設した老舗英字紙「カンボジア・デイリー」に6億円以上の追徴課税を命令し、同紙は9月4日に廃刊の道を選んだ。

 これに対し、米国政府も強硬姿勢を示した。11月7日付のプノンペン・ポストによると、米政府は、地雷・不発弾除去を担うカンボジアの政府機関「カンボジア地雷対策センター(CMAC)」への来年度の援助を中断。200万ドル(約2億2600万円)に上るとみられる米政府援助は、ノルウェーのNGOを通してCMACに供与され、主にカンボジア東部の地雷・不発弾除去に活用されてきた。米側はコメントをしていないが、ノルウェーのNGO関係者は同紙に「米国側からは理由の説明はなかった。非常に急なことで困っている」と語った。

 また、11月9日には米上院のテッド・クルーズ議員が「このままでは米国とわが同盟国は、カンボジアの総選挙の正当性を認めることはできない」との声明を発表した。

 ◆中国の代理人

 現地紙によると、フン・セン首相は翌日の演説でこの声明に触れ「複数政党制の選挙を通常どおり実施する。他国に『選挙の正当性を認めない』と脅されるいわれはない」と述べた。別の演説で、米国を名指しはしないものの「民主国家を名乗る国が、カンボジアの民主主義を破壊しに来る」とも述べている。

 フン・セン首相の対米強硬姿勢の背景には、深まる中国との関係があるともいわれる。カンボジアは、東南アジア諸国連合(ASEAN)内で「中国の代理人」とまで呼ばれるほど中国にすり寄っており、その見返りとして多額の援助や軍事協力を得ている。人権問題やガバナンスの正当性を重視しない中国の外交は、フン・セン政権にとって心地よく都合がいい。

 カンボジア国内では、救国党勢力の切り崩しが始まっている。前党首のサム・レンシー氏、副党首のムー・ソクア氏ら野党議員たちは逮捕を恐れて国外に逃げている。現地紙によると、地方の野党議員たちは「今のうちに与党に加わらなければ、政治活動ができなくなる」と与党側にささやかれ、実際に離党する人たちも出始めた。13年の総選挙前後には頻繁に開かれていた与党批判の集会も影を潜め、社会全体に物言えぬ空気が漂う。

 カンボジアでは、選挙改革支援として日本や欧州連合(EU)が援助を続けている。今回のような手段で最大野党解党の判決が下った場合、果たして総選挙が公正に行われるといえるのかどうか。援助国として日本の姿勢も問われることになるだろう。(カンボジア月刊邦字誌「プノン」編集長 木村文)