相撲協会は「世間知らずの集団」 日馬富士問題で分かった無能ぶり
【ニッポンの謝罪道】 横綱・日馬富士による貴ノ岩暴行事件についてグダグダした報道が続いているが、これは一体何が原因かと考えると、これである。
仕事ができない連中が、特異過ぎる環境内におけるしがらみだらけの中で最善を尽くそうとしているからグダグダする
暴行の現場にいた横綱の白鵬や鶴竜は「ビール瓶では殴っていない」「40~50発も殴っていない」など、日馬富士擁護に動いた。一方、貴ノ岩の師匠・貴乃花親方は協会の事情聴取に対し拒否の姿勢を貫いている。あくまでも警察を相手にする、という考えだろう。「相撲協会に説明をするとうやむやにされるかも……」といった警戒心を感じるが、あろうことか協会幹部は巡業部長である貴乃花の「降格」までにおわし、しかも協会は冬巡業には帯同させない方針だという。
◆暴行死も「かわいがり」 謝罪が下手すぎる相撲協会
さて、今回の騒動について八角理事長はこう謝罪した。
「この度は日馬富士の暴力問題につきまして、皆様に多大なるご心配、ご迷惑をお掛け致しましたことをおわび申し上げます」
「できるだけ早く事実関係を明確にすべく最大の努力をして、再発防止の対策も協会の総力を結集して講じていく」(いずれもテレビ朝日より)
2010年の賭博問題の謝罪の際は、80人の親方衆や力士が謝罪をした。時事通信によると当時の武蔵川理事長はこう語った。
「今後の協会のあり方も含めて考えていきたい。うみを出し切り、新しいレールで踏み出せるようになれば、いつでも責任は取る」
また、2011年の八百長疑惑の時、放駒理事長はこう語った。
「このような事態に、大変憤りを感じ、心苦しく思っている。申し訳ない」と謝罪。「過去には一切なかった問題。全力で解明を行う」と話した。(日経新聞電子版)
さらに、後日行われた別の会見で放駒理事長は朝日新聞デジタルによると記者との一問一答に対し、こう語っている。
--幕内の上位力士に八百長疑惑が広がる可能性があるとみているのか。
「特別調査委の報告を聞く限りでは、新たな疑惑は出ていない。調査が今後どうなるかは、全く分からないし、聞かされていない」
--自身の責任の取り方については?
「今のところ、考えていない。この問題をどう処理していくかが先。責任があることは、自覚している」
大抵の場合「うみを出し切り」と言った場合、うみは出し切れない。単なる「一生懸命頑張ります」程度の言葉を大袈裟に言っただけである。うみを出し切るのであれば、強かった力士が要職に就き、とかく派閥が生まれがちな協会の体質を完全に変えるしかないのだ。これまでにも何度も不祥事を起こしてきた日本相撲協会だが、そもそも「謝ることが下手すぎる」側面がある。上記、八角、武蔵川、放駒理事長の発言についてはどこか他人事感が漂う。しかも、時津風部屋で弟子が暴行され死んだ際も「かわいがり」とされた。この事件の際に「ビール瓶で殴った」という事実があるだけに、今回の件では「ビール瓶」で殴ったことだけは何としても避けたいという「論点そこかよ!」的な証言が出てくるのもモヤモヤする。
あまつさえ、今回は貴乃花を処分・排除するかのような方針は、まったくもってして世間の空気とはかけ離れた方針だ。暴行があったのであれば、警察に通報するのは普通のことだろう。だが、協会は「なぜ、外にまず漏らすんだ……。内輪で対処すりゃいいのに、貴乃花は余計なことをしおって……」という態度を取った。
◆相撲協会は「世間知らずの集団」
もう、敢えて言ってしまえば相撲協会のお偉いさん方は世間知らずの集団なのである。しかも謝った経験はあまりない。理事になる親方は、現役時代に卓越した成績を残した人が多い。それこそ、横綱・大関・関脇・小結経験者がズラリと並ぶ。以下、相撲協会公式サイトに掲載された名前の順番だ。これが序列となっているのだろうが、前頭の2人はドン尻の2人である。
八角(元横綱・北勝海)、尾車(元大関・琴風)、貴乃花(元横綱・貴乃花)、鏡山(元関脇・多賀竜)、伊勢ヶ濱(元横綱・旭富士)、二所ノ関(元大関・若嶋津)、境川(元小結・両国)、春日野(元関脇・栃乃和歌)、出羽海(元前頭二枚目・小城乃花)、山響(元前頭筆頭・巌雄)。副理事や役員待遇委員、委員、主任にも最低でも前頭の上位にいた人々が並ぶ。
本来公益法人たる組織を運営するにあたり、「相撲の強さ」と「実務能力」は分けて考えるべきである。相撲で強ければ強いほど、部屋では神様のように扱われ、タニマチ(力士をひいきしてくれる客や後援者)からはチヤホヤされ、稽古と取組以外では甘やかされた20代を過ごすこととなる。30代で引退すれば、良い成績を残せなかった元力士がちゃんこ屋経営やプロレスラー転身など自らの新たな道を切り拓いていかなくてはならない中、上位力士は協会に残り、要職に就く。
結局、相撲が強かった人間というものは、日本相撲協会というあまりにも特殊すぎる組織で再びお山の大将になり、一般論が通用しない人生を送ることとなるのだ。過去の親方連中の謝罪風会見や、不祥事時のコメントを見ても、我々のような一般的労働者からすれば「うわ、こいつ、無能さが滲み出てる……。こんな仕事相手がいなくてよかった……」と思うレベルの者が多い。
◆会見でふてくされた態度 甘やかされたブラック組織
今回もまともな組織であれば「なに、暴力事件が起きただと! よし、その場にいた者は全員来い。事情聴取をする」と召集をかけ、そして明らかな暴行が判明した場合は「貴ノ岩、お前は今回の件を警察沙汰にする? 示談で納める? どっちにする? それはお前に任せる。被害者であるお前の判断を尊重する。そして、後日いやがらせ等があったら、その場合はそれをやった人間をすぐに処分する」とやっても良かったのである。
電通で2015年に当時新入社員だった女性が過労のあまり自殺をする事件があったが、結果的に電通には家宅捜索が入り、労働基準法違反をめぐる裁判では敗訴した。この時、広告業界関係者からは「電通だったら長時間労働は普通だろ……」や「月105時間ぐらいの残業なんて普通」「パワハラだって日常茶飯事なのに彼女は弱い」といった声は聞かれた。
裁判では電通が負けただけに「電通(及び広告業界)の常識は一般から乖離されている」ことが明らかになった形だが相撲協会もそうである。
日本相撲協会の会見というものは、大抵の場合仏頂面でボソボソとふてくされたような喋り方のものが多い。冒頭で紹介したコメントのように、謝罪しているのか明確には分からず、「余計なことしやがって、オレは悪くないのに……」的な態度がまかり通っている。
確かに相撲協会は儲かっているのでビジネスのセンスはあるのだろうが、「死者が出ても『かわいがり』と言い放つ」というあまりにも無慈悲かつ異常な組織であることは理解した方がいい。NHKが連日2時間にわたって放送するという優遇をされ、「国技」ということで、メディアも国民も「相撲だからしょうがないよねw」と甘やかしすぎたのでは。数々のブラック企業が糾弾されてきたことを考えると、相撲協会も同様に真摯な謝罪をしつつ、糾弾されてもおかしくないのである。
【プロフィル】中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。
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【ニッポンの謝罪道】はネットニュース編集者の中川淳一郎さんが、話題を呼んだ謝罪会見や企業の謝罪文などを「日本の謝罪道」に基づき評論するコラムです。更新は隔週水曜日。
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