【生かせ!知財ビジネス】揺れる相撲協会 見えない価値をどう継承するか
元横綱日馬富士関の暴行事件は、貴乃花親方と横綱白鵬関の相撲道に対する考え方の違いにまで議論が発展し、日本相撲協会が揺れている。大相撲の“目には見えない価値”を誰がどう継承するのか、長い歴史を持つ国ならではの問題がそこにある。
同協会の定款には設立目的を「太古より五穀豊穣(ほうじょう)を祈り執り行われた神事(祭事)を起源とし、我が国固有の国技である相撲道の伝統と秩序を維持し継承発展させる」ため、本場所や巡業などを行うことで「相撲文化の振興と国民の心身の向上に寄与する」とある。
近年、収益向上の源泉として「知的資産」という言葉が使われている。特許や商標などの「知的財産」よりも広義の概念で、例えば郷土に残る遺跡や培われた文化、伝統食は観光業で収益を生む知的資産と位置づけられる。同協会の収益も「相撲道の伝統と秩序」という知的資産が源泉となっていることが伺える。しかし力士を育てて興業を成功させるだけでは、目的は達成できない。
では「相撲道の伝統と秩序を維持し継承発展させる」とは何か。定款に「相撲道」の説明はないが、事業項目に「相撲道の伝統と秩序を維持するために必要な人材の育成」「相撲記録の保存及び活用」「相撲博物館の維持、管理運営」を挙げ、その継承方法は示されている。
現在問われているのは「人材の育成」にある。カギは相撲道とは何か、その継承者の認識にあるが、ここが見えてこないのだ。それぞれの力士の認識はどうなのか。さらには、力士出身者だけがその任にあたるべきかという点もあろう。企業の知的財産も地域の知的資産も同じだが、目に見えない価値を守る専門家がいないと、ことグローバルな時代では危険にすら見える。
ちなみに日本相撲協会が保有する知的財産権は「日本相撲協会」の商標5件と「桟敷用連結座布団」という実用新案1件。力士名の商標は「千代の富士」(本人が登録)などがある。また、定款には事業について「本邦及び海外において行う」と書かれているが、「Nihon Sumo Kyokai」に関する海外商標出願は見当たらない。一般企業による「Sumo」などの文字や図形を使った商標は散見される。米大リーグが知財管理会社をつくって海外出願し、裁判までしているのとは差がある。(知財情報&戦略システム 中岡浩)
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