それでも世間を無視する“相撲記者のズレっぷり” 日馬富士と伊勢ヶ濱親方は「空気を読んだ」が…

 
理事会を終え会見に臨む(左から)鏡山理事、八角理事長、尾車理事、高野利雄理事=11月30日、両国国技館(蔵賢斗撮影)

【ニッポンの謝罪道】 大相撲の記者にならなくて良かった! 最近つくづくそう思っている。日馬富士による貴ノ岩の暴行問題で、当の本人はもう引退したというのにテレビは「貴乃花親方とモンゴル人力士の確執」や「黒幕は白鵬」など未だに長時間かけて報じている。取材に行っても誰も口を開いてくれないものだから、巡業会場にタクシーで乗り付けた体重187キロの大関・照ノ富士が乗ったタクシーが坂を登れずその場でタクシーを降りた、なんて珍騒動まで取り上げる始末。

◆「謝ってるじゃないですか」 協会を擁護する“高齢者集団”

 そんな中、連日のテレビ出演で「特需」とも言えるのが「相撲記者」の皆様方である。若手であっても55歳で、70代、80代の高齢者が次々と番組に出ては日本相撲協会を擁護し続けている。5日に『バイキング』(フジテレビ系)に登場した東京相撲記者クラブ会友の銅谷志朗氏は八角理事長については「追及されるべきですか?」や「物凄く謝ってるじゃないですか」と徹底擁護の構えを見せた。

 「会友」になるには東京相撲記者クラブに10年以上在籍し、かつ55歳以上の相撲担当記者OBに入会資格がある。いわば、現在の執行部を温かい目で見続けてきた高齢者集団である。30年以上前から八百長はあったというのに、税制面で優遇される財団法人の立場を守り、場所中はNHKからは毎日生中継してもらい、スポーツニュースでは必ず取り上げられる。つーか、八百長が蔓延していた時期だってスポーツニュースに出ていたのである! 八百長をするような競技をスポーツと呼んでいいのか? その時代の相撲も含めて報じ続けてきたのが彼らだ。

◆“協会至上主義”… 相撲記者もなかなかキツい

 この相撲記者たちの発言、とにかく違和感しかないのだ。通常、コメンテーターというものは世間の空気を読んで無難な感想を言い続けるのが仕事なのだが、相撲記者軍団は世間の空気を読まず、「貴乃花親方は被害届を出す前に協会に報告すべきだった」などと“お上”の顔色を伺うような発言を繰り返す。テレビのワイドショーのゲストコメンテーター料金は20分~30分の出演ならば3万円~5万円ほどだろう。1日2~3番組、週に6日出続ければウハウハである。まさに「相撲協会を擁護し続けるだけのお仕事」でこれだけカネがもらえるのは羨ましい限りだ。

 ただ、この「誰かを擁護する仕事」というのはなかなかキツい。「相撲取材歴40年」みたいな「東京相撲記者クラブ会友」のオッサンの活動の生命線は日本相撲協会を「出禁」にならないことである。これでは“相撲協会至上主義”になっても仕方ない。大体、「現役時代に相撲が強かったヤツがエラくなって運営側に回る」という奇妙な財団法人と付き合っていると、感覚が麻痺してくる。

 もしも自分がスポーツ新聞の記者になり、相撲記者クラブに入ったらどうなるか? 野球賭博や八百長の話を知っていても書くことはできず、しかし週刊誌にその情報をリークし「○○ノ山の1月場所では3番怪しい取り組みがあります」(スポーツ紙相撲記者)なんて記事が出たら「貴様か! あの情報を出したのか! “かわいがり”をしてやる! ビール瓶だとヤバいから、シャンパンボトルで殴ってやる!」なんて言われてしまうのではないかと恐ろしくて仕方がない。

 結果「出禁」になってしまった場合、自分でチケットを買って観戦しようにもチケットの「もぎり」をする屈強な親方に「あなたは入れないですよ。さぁさぁ、帰った帰った、と言われてしまうことだろう。かくして、相撲記者は自分の生活を成り立たせるために協会擁護を行う。あたかも相撲協会に対して忠誠をいかに尽くすか、といった勝負を各人がしているかのように見えてしまうのである。

◆日馬富士と伊勢ヶ浜親方は「空気を読んだ」

 ツイッターでは相撲記者のズレっぷりに対し、違和感の表明や批判が多数書き込まれているが、これが「世間の空気」ってヤツであり、特殊過ぎる閉鎖空間にどっぷり浸かっていると分からなくなるものである。

 結局これらの記者が出て協会と日馬富士・白鵬を擁護しまくり、貴乃花親方と貴ノ岩を批判して何になったか?

 日馬富士は引退にまで至ってしまったが、これは一連の騒動を見て一般の視聴者が日本相撲協会の異常さと、いくら「神事」「国技」であろうともに非常識な慣習がまかり通る角界に呆れたのも一因では。その点では日馬富士と伊勢ヶ浜親方は空気を読んだのかもしれない。

 本来記者というものは、客観的な視点から報じることが求められる。だが、暴力をふるった側や隠蔽工作を試みる側を擁護する記者が続々出てしまうと視聴者は「あぁ、記者でさえこれだったら自浄作用なんて働くワケねェよな……」と呆れはて、日馬富士に対するネガティブな空気が続々と醸成されてしまったのでは、なんてことも思うのだ。

 もしも本当に協会と相撲の発展と世間の空気を変えることを願うのであれば、協会批判をした方がいい。それにより出禁になることが恐ろしいのならば、一応協会幹部には「これから私がテレビに出たりコメントを求められた時は敢えて厳しいことを言いますので。その方が協会のためになります」と一言断りを入れておけばいい。そんなことさえ分かっていないのだ。いや、こんなことを言えない空気なのか、或いは記者軍団は心底協会のことを正しいと思っているのか、そもそも関係性は築けていないのか。いずれにしても協会と記者軍団の姿勢には違和感だらけだ。

 無能な味方は優秀な敵より怖い--。これを相撲記者は示している。

【プロフィル】中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)

ネットニュース編集者
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

【ニッポンの謝罪道】はネットニュース編集者の中川淳一郎さんが、話題を呼んだ謝罪会見や企業の謝罪文などを「日本の謝罪道」に基づき評論するコラムです。更新は隔週水曜日。

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