いま謝るのか…今年の「ベスト謝罪」は住谷杏奈 9年前のウソ告白は見事だった

 
2017年1月21日に「バターロール作ったよ」とエントリーした住谷杏奈の公式ブログ

【ニッポンの謝罪道】 残すところわずかとなった2017年--今年も数々の謝罪があった。その中で「No.1謝罪」だと思ったのが、日本全国の99.99%の人にとってどうでもいい謝罪であろうが、個人的には非常に印象深かった件である。それは、〈住谷杏奈 9年前に炎上した「バターロール事件」をついに謝罪〉というニュースだ。

◆9年前の炎上騒動を謝罪

 このニュースの中身は、2017年1月21日に放送された『有吉反省会』(日本テレビ系)にて、タレントの住谷杏奈が2008年に発生した「バターロール騒動」について真実を語り謝罪したという件である。「住谷杏奈って誰?」という方もいるだろう。彼女は2005年に「ハードゲイ」の芸風で「フォー!」という決めゼリフを用い流行語大賞のトップ10を獲得したレイザーラモンHGの妻である。HGがイケイケのときはそれほど目立たなかったが、その後メキメキと頭角を表しHGが不遇な時代も家庭を支え、当初の「ママブロガー」的立ち位置から今や成功した実業家となっている。

 この騒動は、住谷自身が材料からバターロールを作り、焼いたことをブログで報告したことに端を発する。手作りのバターロールを焼く良き妻といった文脈のブログなのだが、当時2ちゃんねるのヲチ(ウオッチ)スレでは、ある疑惑が指摘された。曰く「ヤマザキのバターロールじゃないの?」ということだ。

 住谷は当時明確に反論したが、騒動から9年、「本当に申し訳ございませんでした」とウソをついていたこととヤマザキのロールパンだったことを認め、番組で謝罪したのである。その「禊」として住谷は番組で群馬県のパン屋で実際にロールパンを作った。そして、ブログでそのパンを写真で紹介するエントリーを書いた後に、詳細を伝えるエントリーを更新し、こう書いた。

〈パン屋さんの社長をはじめ、スタッフの方々には、美味しい手作りの差し入れを沢山頂き、よくして頂き感謝でした ありがとうございました 観てくださった皆様もありがとうございました 未熟者ですみません これからは嘘をつかずに、、、いや、たまにはちょびっと嘘をついちゃうかもですが、、、、どうぞよろしくお願いします〉

 自分で焼いたパンをブログ公開→番組出演で「禊(みそぎ)」シーンを流す→番組内容も踏まえつつブログで再度お詫び。この流れは見事である。

◆当時は“炎上”の得体が知れなかった…

 そもそも、バターロール事件の際は、まだ彼女もそこまで成功はしておらず、なんとか「良妻ポジション」を取ろうと必死だった。実際私も当時住谷のブログが炎上していることは、彼女のブログを基にした書籍を作ろうとしていた編集者から聞かされており、「どうすればいいですかね…」や「また炎上してます」などと嘆きを聞いている時期にあたる。

 まだ「ネット炎上」といった言葉がそこまで一般化してはおらず、炎上することが人生にとんでもないダメージをもたらすのでは? といった不安も持たれている時代だったからこそ、炎上しないように芸能人に対して周囲の関係者がいかに気を遣うかといったことも検討されていた。

 そして、その後「バカッター騒動」をはじめとし、芸能人のみならず一般人も続々とネットで炎上する事例が相次ぐとともに、ネットのアクセス増加がそれなりの収入をもたらす時代が到来した。炎上も日々発生するものだから、一度炎上しても数日すればなかったことにされるように。

 そんな状況にあるにもかかわらず、9年越しの告白である。住谷自身、今は心に余裕ができたのだろう。『有吉反省会』は4年前にもオファーを出したというが、2017年初頭、ようやく彼女は番組に出演し、過去に嘘をついていたことを詫びた。そして、ネットの空気としては許された。

◆「今なら笑いに」…謝罪はタイミングも重要

 だが、正直、「ヤマザキパンのバターロールを手づくりのバターロールということにした」という低レベルの嘘でなぜネットはあそこまで沸騰したのか? また、辻希美についても、「ご馳走を作ったとブログで述べたが実際は、後ろの方に義母が映っている写真を掲載した」ということで炎上した過去がある。

 住谷にしても、辻にしても「パンを焼く能力があると嘘をついた」「自分で作ったと言うくせに義母が作ったとの疑惑がある」という面においてはセコさを感じるものの、そこまで炎上させるべき案件でもない。

 ハッキリ言ってしまうと「どーでもいい」ということになる。自分のことを「盛る」ブログを書いてしまったというだけである。これは詐欺でも何でもないし、被害者が出るような話でもない。しかしながら、ネットで他人の生活を監視する黎明期にやらかしてしまった住谷は、当時はヲチ対象者が少なかっただけに激しく炎上した。

 あの時のネット上の顔の見えない人々によるバッシングにさぞや脅えた面もあるだろう。こうして9年、どうでもいいことに対して謝罪をし、さらには出演ギャラまでキチンともらい、その後はジョークのごとくブログで報告した住谷杏奈は立派だ。些細なことでも忘れてくれない人が数人でもいて、その人々がネットで自由に発言できる状況にある今、「一生この件が私についてまわるのもたまらん」と思い、今回の判断に至ったのだろう。

 そこには「今の私ならば笑いに変えられる」という自信も見え隠れする。謝罪タイミングの重要さも住谷は今回示した。

【プロフィル】中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)

ネットニュース編集者
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

【ニッポンの謝罪道】はネットニュース編集者の中川淳一郎さんが、話題を呼んだ謝罪会見や企業の謝罪文などを「日本の謝罪道」に基づき評論するコラムです。更新は隔週水曜日。

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