世界最大の次世代装置で宇宙誕生の謎、物質の起源に迫る ハイパーカミオカンデ計画
ニュートリノ研究で世界をリードする東大宇宙線研究所が次に目指すのは、世界最大級の観測装置であるハイパーカミオカンデの建設だ。2026年度以降に稼働させ、素粒子物理学の新たな地平を切り開き、物質の起源や宇宙誕生時の姿に肉薄しようとしている。
◆20階建てに相当
計画によると、ハイパーカミオカンデはスーパーカミオカンデがある飛騨市神岡町の山中の地下650メートルに建設する。直径74メートル、深さ約60メートルと20階建てのビルに匹敵する巨大な水槽で、約26万トンもの水を蓄えることができる。地下深くに設置するのは、観測を妨げる余計な粒子が飛び込むのを岩盤で防ぐためだ。
水槽の内壁には「光電子増倍管」という光センサーが隙間なく4万個も並べられ、ニュートリノなどが水の分子と衝突した際に生じる微弱な「チェレンコフ光」をとらえる。
小柴昌俊氏が超新星爆発に伴うニュートリノを観測してノーベル物理学賞を受賞した「カミオカンデ」、梶田氏が成果を挙げたスーパーカミオカンデに続く3代目の装置で、水の量は現在の約5倍に増える。
巨額の総工費675億円をどう確保するかが課題だが、完成すれば世界をリードする一大研究拠点となることは間違いない。米国では一足先に同様の成果を目指す施設の建設が始まっており、遅れは許されない。
◆桁違いの観測量
宇宙は138億年前の誕生時に、物質を作る粒子と、電気的な性質などが反対の「反粒子」が同数生まれたとされる。だが現在は粒子だけが残り、反粒子は消滅した。「CP対称性の破れ」と呼ばれるこの現象の謎を解くことは、素粒子物理学の大きな課題だ。
この謎はノーベル賞を共同受賞した小林誠、益川敏英両氏の理論によって、素粒子クォークについては既に解明されている。しかし、両氏の理論だけでは、宇宙全体の物質を十分に説明できない。
ハイパーカミオカンデが目指すのは、この現象がニュートリノでも起きることを突き止め、謎の全容解明につなげることだ。スーパーカミオカンデの実験で既にその兆候が表れているが、確認にはより多くのデータが必要で、ハイパーカミオカンデでの検証が欠かせない。
計画では茨城県東海村の実験施設「J-PARC」で生成したニュートリノを、西へ295キロ離れたハイパーカミオカンデに向けて発射。地中を貫通し、光速で水槽に突入したニュートリノによって生じるチェレンコフ光をとらえる。
1日に観測できるニュートリノは、スーパーカミオカンデと比べ10倍の約300個に増える。同研究所の塩沢真人教授(素粒子物理学)は「観測量が桁違いなので、実験開始から数年で結論が出るかもしれない。この成果を踏まえ、さらに次の研究テーマが見えてくるのではないか」と意気込む。
◆陽子崩壊の初観測狙う
ハイパーカミオカンデが狙うより大きな成果は、世界初となる「陽子崩壊」の観測だ。
陽子は中性子や電子とともに原子を構成する要素の一つで、クォーク3個でできている。現在の素粒子物理学の基本法則を超える「大統一理論」では、陽子はごくまれに崩壊し、別の素粒子に生まれ変わると予測されている。観測できればノーベル賞級の成果だ。
陽子の平均寿命は現在の宇宙の年齢をはるかに超えて、少なくとも10の34乗年という途方もない長さだ。だが、ハイパーカミオカンデには大量の水があるため、水の分子に含まれる陽子のどれか一つでも崩壊すれば、その際に生じた素粒子によるチェレンコフ光をとらえることができる。
大統一理論は、自然界に存在する4つの力のうち、重力を除く3つをまとめる仮説だ。塩沢教授は「宇宙誕生直後は3つの力がまとまっていたとされる。大統一理論が仮説でなくなれば当時の姿に近づける大きな一歩だ。重力を加えた4つの力をまとめた“全ての理論”につながるかもしれない」と意義を強調する。
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