トランプ米大統領就任1年 メディアとの関係は過去最悪 中間選挙へ深まる対立
トランプ米大統領は20日で就任1年を迎える。目立つのは、過去最悪と評されるメディアとの対立だ。主要メディアを「国民の敵」と位置付けて執拗(しつよう)に攻撃するトランプ氏に対し、報道機関は政権の弱みを突くスクープで対抗。共和党政権への審判が下される11月の中間選挙を控え、対立はさらに深まりそうだ。
トランプ氏のメディア攻撃の主な手段はツイッター。フォロワーは4600万人を超える。「フェイク(偽)ニュース」とやゆされるのはCNN、ニューヨーク・タイムズ紙など政権に手厳しいリベラル系メディアだ。
大統領就任前からトランプ氏を知る関係者は「不動産王だった時代に自分をもてはやしたメディアが、厄介な存在になったことに憤っている」と解説する。
メディアを「エリート層の手先」とやり玉に挙げることで、既存の社会体制に不満を募らせてきた支持層に訴える狙いも見え隠れする。
メディア敵視は中傷にとどまらない。自身とティラーソン国務長官の不和を報じたNBCテレビの放送免許取り消しに言及するなど、気に入らないメディアには経営への介入もちらつかせる。政権寄りのFOXニュースや右派メディアがトランプ氏を擁護する構図も定着しつつあり「旧共産圏の情報統制のようだ」との声も上がる。
ニューヨーク・タイムズのバケー編集主幹は、トランプ氏が権力の監視を責務とするジャーナリズムに「かつてない手段」で攻撃を仕掛けているとして「反撃しなくてはならない」と語る。報道各社は調査報道に注力、政権とロシア側の不透明な接触や閣僚の権限乱用などを次々に暴いた。
ただ、メディアの勇み足も目立つ。昨年12月にはロシアによる米大統領選干渉疑惑をめぐり、トランプ氏とロシア側の共謀を示唆した報道に「深刻な誤り」があったとしてABCテレビが記者を停職処分とした。相次ぐ誤報の背景に、メディア側の「偏向」があるとの指摘も出ている。
トランプ氏は注目を集める自分の方に分があると余裕の構えだ。「私がいなければ(テレビの)視聴率はがた落ちだ。メディアは立ちゆかなくなる」と述べ、自身の再選に向け各社が好意的な報道に転じると自信を示している。(ワシントン 共同)
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■見せかけの「透明性」アピール
専用ヘリコプターに乗り込むためトランプ米大統領が執務室から現れると、ホワイトハウスの庭で待ち構えていた記者らが思い思いの質問を大声で叫ぶ。ヘリの轟音(ごうおん)が響く。トランプ氏は「減税」など断片的に聞こえる言葉に反応し、持論をまくし立てる。
政権は昨年秋から、トランプ氏がヘリに乗る直前に取材機会を設けて透明性をアピール。だが突っ込んだ質疑が交わされることはなく、トランプ氏の一方的な独演場となっている。集音マイクが拾うトランプ氏の声はテレビでは鮮明に聞こえ、雄弁な印象を受ける。
かつてバラエティー番組の司会で人気を集めたトランプ氏。大統領としての報道対応も、自分を演出するショーのような感覚なのだろう。
就任後、ホワイトハウスの寝室などのテレビを増やしたというトランプ氏は、常に報道をチェックし、ツイッターで攻撃。メディアの評価を強く意識する。だが単独で正式な記者会見を開いたのは就任直後の昨年2月16日だけ。ニクソン氏以降の歴代大統領で最低の頻度だ。報道の自由が尊重されてきた米国で大統領が説明責任を放棄すれば、各国にも悪影響を及ぼしかねない。
「大統領は表現の自由を定めた憲法を支持するつもりがあるのか」。ホワイトハウスの会見で、記者らはトランプ氏の姿勢を正す。しかし「メディアはまず正確な報道をすべきだ」と非難する報道官の主張とはかみ合わないままだ。(ワシントン 共同)
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■偽情報仕組み「おとり作戦」
トランプ政権とメディアの対立が深まる米国では、有力紙に偽の情報をつかませようと仕組む「おとり作戦」も明るみに出ている。虚偽の報道をさせることで、既存メディアの信頼性をおとしめる目的があるようだ。
ワシントン・ポスト紙は昨年11月「情報提供者」とのやりとりの一部始終を明かす異例の記事を掲載した。南部アラバマ州連邦上院補選の共和党候補のわいせつ疑惑で、自分は被害者だと名乗り出た女性が、右派系団体の指示で嘘をついていたことが判明したのだ。
女性を雇っていたとされる右派系団体「プロジェクト・ベリタス」は、隠し撮りでリベラル系団体などの不祥事を告発することで知られ、メディアも標的にされてきた。トランプ氏を支持してきた右派サイト「ブライトバート・ニュース」と近く、トランプ氏も資金提供したことがある。
ポスト紙は、女性が「リベラル系メディアのペテンを暴く仕事に就いた」と投稿していた経緯をつかみ、ベリタスの「潜入記者」と見破ったという。同紙のバロン編集主幹は、経緯を公表した理由について「私たちをだまし、妨害しようとする工作の核心だからだ」と説明した。(ワシントン 共同)
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■言論弾圧に口実与える懸念も
メディアの問題に詳しい米デポー大のジェフリー・マコール教授の話 トランプ大統領は主要メディアを既得権益層の一部として攻撃する戦略で選挙に勝ち、支持層のてこ入れにも効果的と考えている。メディアとの関係はさらに悪化するだろう。米大統領が「フェイクニュース」とメディアを糾弾することで、世界の強権的指導者に言論弾圧の口実を与える懸念もある。
報道各社は政権批判で対抗しているが、日々の競争に追われて情報の精査を欠き、誤報続きでメディア不信を増幅させた。自分の思想や信条に合う情報を求め、ソーシャルメディアでニュースに接する人が増える中、客観的な報道は一層難しくなっている。
公共に資するニュースとは何か、メディア側も考えるべきときがきている。(ワシントン 共同)
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